原題 | 原題:流麻溝十五號 英題:Untold Herstory |
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制作年・国 | 2022年 台湾 |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | 周美玲(ゼロ・チョウ) |
出演 | ユー・ペイチェン、リエン・ユーハン、シュー・リーウェン、シュー・タオ、ジャン・ユエ他 |
公開日、上映劇場 | 2024年7月26日(金)~シネマート心斎橋、京都シネマ、7月27日(土)~第七芸術劇場、8月3日(土)~元町映画館ほか全国ロードショー |
~政治犯として生きざるをえなかった女性たちの、心の叫びに共感する~
笑顔が一つの意志、抵抗を表すことがある。本作のエンディングを観ながら、笑顔の裏側にある強さと切なさを心に刻んだ。
これは、アジアの歴史に詳しくなければ、今では知らない人も多いだろう台湾の暗黒時代の不条理と、犠牲を強いられた女性たちの姿を描く壮絶なドラマである。
1953年、台湾の南東にある緑島に、何人もの女性が連行されてくる。蒋介石率いる台湾国民政府が恐怖政治を行い、戒厳令を敷いた「白色テロ」の時代、自由を口にしただけでも政治犯としてつかまり、緑島に送られていたのだ。その中に、まだ高校生のユー・シンホェイ(ユー・ペイチェン)がいた。彼女は絵を描くのが好きで、周囲の人に優しいまなざしを向ける純朴な少女だが、無実の罪で投獄された。モダンダンサーのチェン・ピン(リエン・ユーハン)は妹を守るために自首し、早く妹と暮らすことだけを願いつつ、生き延びるための道を探っている。そして、毅然とした態度と強い信念でリーダー的存在となる看護師のイェン・シュェイシア(シュー・リーウェン)。この三人を中心に、緑島での重労働と理不尽な扱いの日々、胸の中に積み重なっていく怒りがじっくりと描かれる。
題名になっている「流麻溝十五号」は、彼女たちが政治犯として収容された緑島の住所を示す。一人一人は名前という個性を奪い取られ、無味乾燥な番号で呼ばれる。別棟にいる男性収容者との会話は禁止されているが、彼らは密かに情報源として新聞の切り抜きを渡し合い、淡い恋も生まれる。だが、ここに送られてきたのは、為政者による“思想改造”と“再教育”が目的。中国文革時代の紅衛兵を思い起こさせるが、権力を盾に“圧する側”に立つと、どうして人はこれほどに残虐になれるのか。人の頭の中や心の中を、本人の意思を無視して“改造”などできはしないのに。
台湾旅行の手引き書などで「日本語が通じる」と書かれているのを見たことがあるが、そこにどういう歴史的背景があるのかについてもっと知らされるべきだ。本作でも、日本語の台詞が飛び交っているが、日本が台湾を統治した時代があったからだ。日清戦争の結果、下関条約により台湾が当時の清朝から日本に割譲されたのが1895年、それから1945年の第二次世界大戦の日本降伏まで、日本領台湾として台湾総督府が設置された半世紀、台湾では日本語教育はもちろん、日本政府の意向に沿った政策が行われた。それが台湾の人々にとってどうだったのかはanother storyだが。そして、戦後に中国大陸から共産党軍に追われるようにやって来た蒋介石率いる国民党が、台湾の共産化を阻止するため厳格化したのが「白色テロ」。台湾人が「なんでやねん?!」と思ったとしても不思議ではない。
監督のゼロ・チョウは、これまでジェンダー平等の立場から作品づくりに取り組んできた。英題Untold HerstoryのHerstoryを見て一瞬???と思ったが、男性目線のHistoryを用いないという彼女の気持ちがこめられているのだなと理解した。人が持つ弱さ、強さを注意深く見つめ、さまざまな人間模様の間から「これだけは絶対許してはいけない」という監督の熱い思いが伝わってくる入魂の一作。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://ryumako15.com/
配給:太秦
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