ワクワクとモヤモヤが織りなすマトリョーシカみたいな私たちの物語

ときはY2K問題に世界中が揺れた1999年。Y2Kと聞いて西暦2000年問題が浮かぶのはおそらく30代後半〜40代以上で若い世代にとってはファッションやカルチャーの代名詞だろう。ユーとミーはバンコクに住む中学3年生の一卵性双生児。英語が得意でおとなしめのユーと勝気で数学が得意なミー。見た目もサイズも同じだけど唯一のちがいはホクロ。ある日ミーはユーの代わりに数学の追試を受ける。そして迎えた夏休み。二人が母方の実家であるタイの東北地方を訪れると、そこには追試で出会った同級生のマーク（アンソニー・トニー・ブィサレー）がいた。都会のマンションから祖母の営む商店での間借り生活へ。自然に囲まれた牧歌的な空気のなか、それぞれ身の上に少しづつ変化がおとずれる。

自身も一卵性双生児であるワンウェーウ、ウェーウワン・ホンウィワット監督。名前まで鏡写しのような姉妹監督が”ふたごのリアル”を描きたいとして持ち込んだ企画だ。ティティヤー・ジラポーンシンにとっても主演デビューとなる本作は瑞々しいという言葉をそのままスクリーンに焼き付けたよう。何か新しいことが始まりそうなワクワク感と不安や焦り嫉妬などのモヤモヤがにじみでている。初恋は確信の持てない曖昧な心の動きの、一番わかりやすい事象だけど、この作品が描くのはそれだけじゃない。ここには名前の付けられない心の動きがぎゅっと詰め込まれ、こころと体、環境の変化に戸惑う思春期の姿が豊かに映し取られている。こどものままでいたい気持ちとちょっと背伸びをしたい気分、どちらも本当。一つひとつに戸惑い、悩み、考えて胸を震わせることの鮮度が経験値と共に失われていくのは否めない。それがわかるから大人にとってこどもは眩しい存在なのだ。ふいに数十年前の、真新しい制服と履き慣れない靴で歩いた中学校の通学路が頭をよぎった。そして三者三様に答えを探し選び取っていく姿に時空を超えて胸が熱くなるのだ。

さて、Y2KポイントをCheck it out! 作中でふたりが着ている服がカラフルで可愛い！サロペットありクロップドパンツあり。ノースリーブにフレンチスリーブ、チェックのシャツはいつの時代も鉄板だ。タイトなセットアップでポップスを歌い踊るシーンは微笑ましくいつまででも見ていたかった。この楽曲も当時のタイのガールズデュオによるもので日本で言うなら安室ちゃん路線だったらしい。世紀末の象徴、ノストラダムスの大予言の話題が出たのも懐かしかった！だんだんホクロを見なくてもどっちがどっちか見分けられるようになっていたのだが、ひとり二役と知るとネーミングの意味がリアルに迫ってきた。自分の中にあい反するものを抱えもがくのが思春期なのだ。マークの爽やかさと蓮池のシーンにはぜひ注目してほしい。夢か極楽かこれまでに観たなかで最上級のデートシーンだった。

そんな自然でフレッシュな三人に会いに劇場へ来てほしい。ホクロのあるのがミー、ないのがユーということだけ覚えておいて！ちなみに制作はタイで新進気鋭のGDH559という会社で『女神の継承』のバンジョン・ピサンタナクーンが本作をプロデュースしている。ホラーのヒットが続いたが守備範囲は多岐に渡り、今後も要チェックのレーベルだ。姉妹監督が本作を撮るところまでもが映画的で、自伝ではないが物語のなかにまた物語を感じて、まるでマトリョーシカのよう。ここまで大人視点で書いてきたが、物語は100%ティーンの目の高さで語られているからリアルタイム世代には熱い出会いになるだろう。もしあなたがふたごなら特別な１本になるかもしれない。

（山口 順子）

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後援 : タイ王国大使館・タイ国政府観光庁　

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