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『フェラーリ』

 
       

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作品データ
原題 FERRARI  
制作年・国 2023年 アメリカ・イギリス・イタリア・サウジアラビア合作
上映時間 2時間10分 PG12
原作 ブロック・イェイツ著「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」
監督 マイケル・マン(『ヒート』『ラスト・オブ・モヒカン』『マイアミ・バイス』)、脚本:トロイ・ケネディ・マーティン、撮影監督:エリック・メッサーシュミット、音響設計:リー・オーロフ、アンディ・ネルソン、音楽:ダニエル・ペンバートン
出演 アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー
公開日、上映劇場 2024年7月5日(金)~TOHOシネマズ 日比谷 他全国公開


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~レジェンド創業者の複雑怪奇で、アンバランスな素顔~

 

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レーシングカーと高級スポーツカーで知られるフェラーリ。このイタリアの自動車会社を創業したエンツォ・フェラーリ(1898~1988年)の物語なのに、アメリカ映画ゆえに全編、英語で話されていました。これはアカン!! ひと昔前ならわかりますが、いまだに〈英語至上主義〉というのはいかがなものでしょう。やはり現地語(イタリア語)を使わないと! 残念の極み……。


ぼくのポリシーからして、こういう映画は「ノー・グッド」です。しかしヒューマン・ドラマとしてよく出来た作品で、しかもマイケル・マン監督(アメリカ人)の新作ということで、あえて〈言語問題〉を無視して書かせてもらいます。タバコ業界の不正を描いた『インサイダー』(1999年)以来、この監督に注目していましたから。


マン監督は、フェラーリの実像をあぶり出した1991年出版の書籍に触発され、ずっと映画化を構想していたそうです。「F(フォーミュラ)1の帝王」と呼ばれた男によほど惚れ込んだとみえ、アメリカ映画『フォードVSフェラーリ』(2019年)では製作総指揮の1人に名を連ねていますね。


ぼくは車にはそれほど明るくありませんが、フェラーリが謎めいた人物ということぐらいは知っていました。映画では、1957年の1年間に絞り、本人と妻、そして愛人の三角関係を軸にして、その謎解きに挑んでいます。日本では昭和32年、「もはや戦後ではない」と言われた年の翌年で、コカ・コーラが日本で販売されました。


フェラーリ社は、1947年にフェラーリが故郷のモデナで妻ラウラと共同で設立され、その後、少数生産にこだわりすぎて、破産の危機に陥りました。それが1957年だったんですね。だから、映画は全編、レトロ感に満ちあふれています。イタリア最大手のフィアット社やアメリカのフォード社から買収話が持ちかけられたのもその頃です。


ferrari-500-10.jpg元レーサーで、車の設計士でもあるフェラーリは、頑固一徹、独裁者のような経営者。傲岸不遜で、野心家丸出しですが、カリスマ性があり、知らぬ間に人を魅了する、そんな人物です。でも、正直、ぼくの苦手なタイプ(笑)。とにかく自社の車に対する愛情が半端ではありません。次の言葉がすべてを言い表しています。


「(ライバルの)ジャガーは売るために(車を)走らせている。しかし私は走るために売っている」


経営と自動車に対するスタンスと情熱は揺るぐことなく、全くブレていません。だからこそフェラーリを世界的ブランドに押し上げていったのでしょう。ところがプライベートな面はズタズタです。


ferrari-500-3.jpg妻ラウラ(ペネロペ・クルス)は経営パートナーなのに、夫婦の関係は冷めきっています。次期後継者として期待していた1人息子のディーノが、前年、難病で24歳で早逝してからさらに悪化し、口を開けば口論ばかり。しかもフェラーリは実母とも仲が悪い!


その陰で、戦時中に知り合った貴族の娘リナ・ラルディー(シャイリーン・ウッドリー)と半ば同棲し、ピエロという男の子をもうけています。何ちゅう奴ちゃ!! でも彼が心の安らぎを得られたのはこちらの家庭でした。あゝ、本妻が可哀そうや……。


ferrari-500-4.jpgカトリック教会の影響が強かった当時のイタリアでは離婚が許されず、当然、愛人の子を認知することもできません。その狭間で彼は悶々とします(ざまぁみろ!=ぼくの心の声)。精神的に常に不安定で、弱みすら見せます。経営者の顔と真逆なところが映画の見どころの1つです。


この伝説的な主人公に扮したのがアメリカ人俳優アダム・ドライバー。予備知識なしで観たので、最初はだれが演じているのかわからなかったです。フェラーリについてかなり身辺調査をしたらしく、容易に人を近づけさせない雰囲気をふんぷんと放っていました。身長187センチのフェラーリを身長189センチのドライバーが演じたので、全く違和感がなかったです。


ferrari-500-7.jpgカーマニアにとって最大の見どころは、当時の車のオンパレード! といってもオリジナルカーは数が知れているので、それを3Dスキャンしたのを基にして外装を構築したそうです。つまりエンジンなど内部は今の車で、外側だけ1950年代の形にしたわけ。それでも車好きにはたまらないはずです。


経営危機を何とか打破すべく勝負に出た「ミッレ・ミリア」というレースが映画のハイライトシーンでした。北部の街ブレシアを起点に南下し、首都ローマで引き返して北上、そしてブレシアへ戻るという1000マイル(約1600キロ)の公道レースです。時速300キロ近い猛スピードで一般道路を走行するのだからすごい!


ferrari-500-1.jpg言葉で尽くせぬほどダイナミックに撮られたレースの場面には圧倒されました。多角的なカメラ・アングル。とりわけ大惨事となった事故のシーンは圧巻。一体どのようにして撮影したのでしょうかね。凄まじい熱量が伝わってきて、数あるカーレースの映画の中でも抜きん出ていました。


車に命を賭け、「ブレーキは要らない」とスピードを探究し続けたフェラーリ。そこに男のロマンが感じられますが、私生活では自己中で、多くの人をキズ付けてきたダメ男。情熱と狂気が入り混じり、ひと言で表現できない人間臭いところを本作は見事に映像化していたと思います。内面の葛藤……。それが映画のテーマかもしれませんね。


ferrari-500-2.jpg余談ですが、公道レース「ミッレ・ミリア」は1957年をもって永久禁止となり、リナとの間に生まれたピエロが現在、フェラーリ社の副会長を務めています。それにしても、改めて思います。イタリア語で製作してほしかったなぁ……と。

 

武部 好伸(作家・エッセイスト)

公式サイト:https://www.ferrari-movie.jp/

配給:キノフィルム

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