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『密輸 1970』

 
       

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作品データ
原題 原題:밀수 英題:SMUGGLERS
制作年・国 2023 年 韓国
上映時間 2時間9分
監督 監督:リュ・スンワン(『モガディシュ 脱出までの 14 日間』『ベテラン』) 脚本:リュ・スンワン、キム・ジョンヨン、チェ・チャウォン
出演 キム・ヘス 『国家が破産する日』、 ヨム・ジョンア 「SKY キャッスル~上流階級の妻たち~」、 チョ・インソン 「ムービング」、 パク・ジョンミン 『ただ悪より救いたまえ』、 キム・ジョンス 『工作 黒金星と呼ばれた男』、 コ・ミンシ 『The Witch 魔女』
公開日、上映劇場 2024年7月12日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema 神戸国際、MOVIXあまがさき ほか全国ロードショー
受賞歴 大鐘映画祭 監督賞(リュ・スンワン)、青龍映画賞 ①最優秀作品賞(リュ・スンワン)②助演男優賞(チョ・インソン)③新人女優賞受賞(コ・ミンシ)④音楽賞(チャン・ギハ)

 

~海女たちの再起を賭けた連帯と解放の物語~

 

リュ・スンワン監督の最新作は、青龍映画祭で4冠に輝いた海洋クライム・アクション。

舞台は韓国の西海岸に面した漁村クンチョン。冒頭からパンチの効いた大衆音楽が流れ、海女たちが勝手知ったる海の中を泳ぎ回り収穫物を手に手に陸に上がる。一糸乱れぬその様子はまるでシンクロ(※旧称)を見ているようだ。このシーンだけで目を奪われてしまった。それもそのはず、韓国のアーティスティックスイミング※国家代表コーチ直々の指導による演技なのだ。当初はパニックに陥ったという俳優陣だが、3ヶ月の特訓を経て水深6メートルの巨大水槽セットに水中ワイヤーを導入する大がかりな撮影をみごと乗り切った。
 

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 さて、近隣の工場による廃棄物が原因で海は汚染され、高値で取引されるアワビが死滅の危機に瀕していた。生活に困った海女たちは、やむにやまれず密輸に手を出すようになる。その手法が大胆と言おうか単純というのか史実に基づいているのだが、なんと航行中の船から指定の場所に一旦投げ込み、それを別便が回収するという方法だ。しかし、そこはサメが生息している海域で・・・これがレトロな味付けでテンポよくスタイリッシュに、もちろんスリリングに語られるからワクワクが止まらない。
 

mitsuyu1970-500-1.jpg懐が潤った海女たちは70年代ファッションに身を包み、街を闊歩する。ファッションも鮮やかな色柄もののジャケットやパンタロンを見ると昭和の日本とそう変わらないみたいだ。テロンとした生地に花柄だったり幾何学模様だったり、今見ると北欧風にも見える。そもそも欧米発祥の流行であればそれも当然かもしれない。音楽も演歌やムード歌謡のような雰囲気で藤圭子や梶芽衣子が歌いそうな哀調なメロディ。この辺りにも共通したものを感じて面白い。


mitsuyu1970-500-3.jpg懐かしさと新鮮さが入り混じった魅惑の世界をキム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソンらが彩る。密輸王を演じるチョ・インソンは色白で時代劇の衣装も映えるが、何でもないポロシャツがなんでこんなにキマるのか。芸達者なパク・ジョンミンは成り上がりの役どころ。イキリっぷりがハマってると思えば、無名時代の彼を発掘したのが他でもないリュ・スンワン監督だったという。細まゆのコ・ミンシの七変化もチャーミングで新人女優賞も納得だ。

 
mitsuyu1970-500-5.jpgそして、この映画のさらなる面白さは、音楽映画やパニックムービーとしても楽しめるところ。当時の流行歌を主軸に音楽監督チャン・ギハが新たに作曲したものを加えみごとに現代と融合させた。劇伴はかなり多めで絶えずかかっている印象だが、これが作品の世界観を補強し、強い存在感を放ちながらまったく邪魔することなく物語を盛り上げる。そして、パニックムービーとしては、クライマックスの海中戦である。陸上での鍛え抜かれた男たちの激しい殺陣と対照的に、海でのシーンは海中だけにスローテンポで追いつ追われつ攻守もせわしなく入れ替わる。水が怖かったという談話が信じられないほど海女たちの泳ぎっぷりはみごとだ。水と一体化しホタテの貝殻やウニを武器に戦う姿はユーモラスでありながら緊迫感も十分。魚群や海藻の美しさと血の匂いに集まる海のギャングの危険があいまって蠱惑的な映像になっている。


mitsuyu1970-500-8.jpg全体にポップで観やすいが、要所要所に現実の厳しさが描かれていることと、ヨム・ジョンアのピリッとした演技が物語を引き締める。キャストたちそれぞれのキャラクターも立っていて、どこを切っても見どころ満点、これからの季節にピッタリの1本!

 

(山口 順子)

公式サイト:https://mitsuyu1970.jp/

公式 X@mitsuyu1970

配給:KADOKAWA、KADOKAWA K プラス

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