原題 | The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry |
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制作年・国 | 2022年 イギリス |
上映時間 | 1時間48分 |
原作 | レイチェル・ジョイス『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』 |
監督 | ヘティ・マクドナルド |
出演 | ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、アール・ケイヴ、リンダ・バセット他 |
公開日、上映劇場 | 2024年6月7日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema神戸国際ほか全国ロードショー |
思いの強さが奇跡を起こす。
イギリス縦断、800㎞を歩いた男の感動ドラマ
それは、一通の手紙から始まった。定年退職をして、妻のモーリーン(ペネロープ・ウィルトン)と二人で暮らすハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)は、遠い北部からの手紙を受け取る。差出人は、昔、一緒にビール工場で働いていたクイーニー(リンダ・バセット)だ。彼女はホスピスにいて、死期が近いとわかっているので、ハロルドにさよならを言ってきたのだ。差しさわりのない返事を書いて投函するつもりだったハロルドを、稲妻のように襲ったのは、天啓ともとれる言葉だった。
実話をもとにした映画と思いきや、そうではない。イギリスのレイチェル・ジョイスが書いた小説『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』が原作。イギリスの権威ある文学賞マン・ブッカー賞にノミネートされ、世界37か国で刊行され、2014年には日本の本屋大賞(翻訳小説部門)第2位となったベストセラー本だ。お話は一応完結したのだが、その後、クイーニーを主人公にしたもの、モーリーンの視点で書かれたものが出版されて三部作になったと聞く。
悠々自適の老後を静かに送っていたハロルドが、突然届いた知らせと過去の出来事ゆえに、破天荒な旅をするというロードムービー。彼を助ける親切な人々が次々と現れ、彼に賛同し同行する人たちまで出てくる。旅の合い間には、ハロルドとクイーニーの関係、フライ夫妻の息子デイヴィッドにまつわる哀しい思い出などが走馬灯のようによぎってゆく。ちなみに、デイヴィッドを演じているのが、マルチに活躍するアーティストとして知られるニック・ケイヴの息子アール・ケイヴ。顔つきがやはりよく似ているなと思う。
ラストシーンを見ると、あることが原因で冷め切っていた夫婦が、再びお互いをまっすぐに見つめ、愛を結び直す物語ともとれるが、ひたすら歩いて歩いて、足が傷つき、服はボロボロになり、倒れそうになっても前へ進もうとした道路上のハロルドはなんて輝いていたのだろうと思った。一つの希望、誰かに何か大切なものを伝えたいという使命感、そして贖罪のような思いを抱きながらの800㎞という過酷な道のり。こんなこと誰にもできるわけがない。でも、ふとした思いつきが人を一瞬で動かすことだってある。
この旅で心身に起こる多様な変化を豊かに表現したのは、『アイリス』(2001年/リチャード・エアー監督)でアカデミー賞とゴールデングローブ賞の助演男優賞に輝いたジム・ブロードベント。老いても強烈なオーラだ。広々と緑が連なる田園地帯から小粋レトロな町並みまで、イギリスらしい風景も、主人公と一緒にじっくり楽しんでほしい。
(宮田 彩未)
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/haroldfry/
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022