制作年・国 | 2024年 日本 |
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上映時間 | 1時間59分 |
原作 | 柚月裕子「朽ちないサクラ」(徳間文庫) |
監督 | 監督:原廣利(『帰ってきた あぶない刑事』) 脚本:我人祥太 山⽥能龍 |
出演 | 杉咲花 萩原利久 豊原功補 安田顕 |
公開日、上映劇場 | 2024年6月21日(金)~TOHOシネマズ梅田他、全国公開! |
~公安警察の「闇」をあぶり出す異色ミステリー&サスペンス~
推理ドラマで、殺人事件に新聞記者が絡むのは言わば、常套手段なんですが、それでもぼくは元新聞記者なので、やはりソワソワしてしまいます(笑)。本作はそれに加え、事件を解明するのが刑事ではなく、一介の警察職員というところに面白さがあり、警察と新聞社との関わりを巧みに突いていてリアル感も満点でした。
愛知県平井市(架空の街)という地方都市が舞台。ストーカーの被害に遭っていた女子大生が殺害され、神社の神主の息子が殺人犯で逮捕されます。これが本筋と思いきや、ちゃうんですよ。女子大生が平井中央署生活安全課へ出していた被害届の受理が、署員の慰安旅行のために先延ばしにされていたのです。そのことを地元紙の米崎新聞がすっぱ抜いた!! 完全なスクープです。
これが発端となり、物語がじわじわと動き出します。警察にとっては理屈抜きに痛い大失態。市民から抗議の電話がジャンジャンかかってくるシーンが映し出されます。普通なら、署長や生活安全課長らに厳罰処分が科せられる事案です。
電話の応対に汗だくになっている広報課の職員、森口泉(杉咲花)は内心穏やかではありません。なぜなら、数日前、米崎新聞の記者をしている親友の津村千佳(森田想)と会った時、慰安旅行のことをポロッと漏らしたからです。後日、親友に問い質すと、断じて自分は書いていないと言い切ります。これは難しいケース。たとえ親友でも、こんな「美味しいネタ」を耳にしたら、記者は書きたくなるものです。でも千佳は仕事より友情を優先した。エライ!
ところが、その彼女が何者かに殺害されたのです。なぜそんな目に遭わなければならないのか、背後に何があるのか……。同署に捜査本部が置かれ、本部捜査一課と同署刑事課が捜査に着手する中、泉は年下同期の刑事、磯川俊一(萩原利久)と共に真相解明に乗り出します。といっても捜査権がないので、思うようにいきません。当たり前ですわ。
そんな状況でも、泉から記事を書いたと疑われた千佳が自らの潔白を晴らすために独自取材し、何かをつかんでいたことを突き止めます。友への贖罪のためにアクションを起こした泉の粘り強さは本物です。十分、捜査官の資質があり、広報職員にしておくのはもったいない。そのひたむきな孤軍奮闘ぶりが見どころです。
その泉に扮した杉咲花。役にのめり込む気迫とエネルギーがすごい! 観る者をグイグイ引きずり込んでいきます。今、若手ではナンバーワンの演技派俳優と言っても過言ではないでしょう。
泉の動きを察知し、何かと接近してくる上司(広報課長)の富樫俊幸(安田顕)が不気味さを漂わせています。得体が知れないというか、感情を表に出さず、常に冷静沈着。というのも、富樫は元公安課に所属していたからです。安田顕、さすがに安定感のある演技を披露していました。
警察の中で公安は異質です。ぼくが現役の記者時代、刑事課、保安課、少年課、交通課、警備課など警察のほとんどの部署を取材できたのですが、公安課だけはアンタッチャブルでした。基本、取材できないんです。幹部以外の捜査員の顔すらわからなかった。
秘密結社、カルト教団、過激派、右翼などによるテロやゲリラ行為を未然に防ぐのが公安の職務です。北朝鮮による拉致事件の捜査も担当しています。要は国家の治安を守るのが最大の目的で、殺人事件とは異次元にあります。
富樫の同期で、同署捜査一係の梶山浩介(豊原功補)刑事は真逆の人物です。泉を小バカにしながらも、人情家とあって陰でサポートします。朴訥で武骨なところが、どこか戦国武将の柴田勝家を彷彿とさせます。
真相解明の途上、かつてテロを起こしたカルト宗教団体の存在が浮かび上がってきます。この辺りから物語は全く別の様相を見せ、そこに記者殺人事件が絡んでくるので、俄然、面白くなってきます。翻弄される泉……、彼女はどうするのでしょう。
本作が長編2作目ながら、原廣利監督の演出が光っています。ミステリー&サスペンスの妙を知り尽くしているというか、どのシーンも腑に落ちるのです。とりわけ、泉と富樫が対峙する場面の緊張感が秀逸で、見入ってしまいました。
原作はヒット作『孤狼の血』を編んだ女性作家、柚月裕子の同名小説。この人、家族に警察官やメディア関係者がおらず、自らもそういう世界とは無縁なのに、よくこんな推理小説を書けたものです。よほど警察と新聞社を濃厚取材している証左ですね。
終盤、題名の「サクラ」が大きな意味を持つことがわかってきます。警察関係の隠語で、公安への情報提供者を統括する担当部署のこと。今では、「ゼロ」と言われていますが、以前は「チヨダ」、その前は「サクラ」でした。実際の桜花と重ね合わせているところがミソです。
「1人の命より、国家の安全の方が大事なんですか!?」。泉が発した言葉が脳裏から離れませんでした。まさに異色ミステリー&サスペンスでした。
武部 好伸(作家・エッセイスト)
公式サイト:https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
制作プロダクション:ホリプロ
©2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会