～映画を観ながら百面相、韓国ラブコメの決定版！～

今年に入って一番笑った映画が本作。失礼ながら平凡なタイトルに主人公も割とよくあるタイプのキャラクターかなと軽い気持ちで観始めてみたら・・・ストーリーは意外な広がりを見せ、キャスト達の喜怒哀楽に観ているこちらも大笑い、かと思えば途中から笑いジワが伸びきるほど真顔になったりと百面相状態。観客席を映したら面白そうだ。

主演は今ノリにノッているユ・ヘジン。『梟－フクロウ』での初の王役抜擢が記憶に新しいが今度は初のロマンティックコメディ。脚本は『エクストリーム・ジョブ』でも才能を発揮したイ・ビョンホン。前作で証明済みのコメディセンスが今回も炸裂！笑わせようという意図が見えるとかえって冷めてしまうものだが、絶妙のさじ加減でツボにはまりまくり。特にお気に入りのシーンは薬局でのあるベテラン女優とのやり取りと”ゆがんだ目”。ユ・ヘジンの顔芸とも言うべき表情の変化が最高なのだ。

監督は『無垢なる証人』のイ・ハン。終始ポップなムードのなか、食品添加物の危険性を指摘するくだりや二人を取り巻く家族間のトラブルなどは現実社会を映して、コメディの中にもさりげなく社会の動きを絡める巧みさを感じる。

何より中高年（本作では45歳と41歳の設定）の本気のラブコメというのが新鮮だ。日本では若い世代に特化した印象があって、描かれる年代との世代差が広がるとターゲット層以外は離れてしまいがちではある。オーバーエイジが主人公なら不倫やサスペンス、または職業などが主軸で恋愛要素はおまけ的なイメージ。しかし愛憎劇や人間ドラマを観る目的とラブコメを観る目的は似て非なるもの。一周回って子ども世代に思いをはせ親世代が観る場合もあり得るが、なんとなくフェンスの外から覗いている感覚。ところが、本作は老いも若きもオールインクルード型。そして、しっかり恋愛ドラマとして描かれている。十代、二十代の記憶は遠すぎて回想シーンでギリギリ思いを乗せられるという私でもすっぽり入り込める懐の広さ。

そう言えば遠のいていた恋愛ものの面白さを思い出させてくれたのは韓国作品だった。まだドキドキできることに作品の内容と相まって二重の感慨が生まれたものだ。高齢社会となって久しい昨今、恋愛はティーンだけのものではないし、いきなり老いらくの恋では跳びすぎで、本作は今まさに大衆が求めていたちょうどいいラブコメだったのでは？ 本国での観客動員数100万人超えという結果がそれを裏付けている。　

さてこの作品、パッと見は美女と野獣風かもしれない。ところがどっこいヒロインのキム・ヒソンはもちろん美しいがけっこう３枚目でなんだか、がんばれば手が届きそうな恋愛観。二人とも庶民的でカッコつけないどころかむしろ不格好、なのにロマンティックという奇跡のバランスなのである。また前述のように以前ならメインは若者、中高年カップルはサブキャラとして描かれることが多かったが、本作ではそれが逆になっているところも面白い。そして、そのサブキャラがまた豪華！ 案外、若者たちもこんな風に飾らない恋愛をしているのかも。観れば気分が上がること間違いなし、ゴールデンウイーク後半戦のスタートを飾るにふさわしい１本！

（山口 順子）

配給：松竹 　　
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