制作年・国 | 2024年 日本 |
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上映時間 | 1時間59分 |
監督 | 監督・原案・企画:中村和宏 脚本:西井史子 音楽:林ゆうき 山城ショウゴ 主題歌:「アルカセ」ユニコーン |
出演 | 江口のりこ、中条あやみ、笑福亭鶴瓶、松尾諭、中村ゆり、中林大樹、駿河太郎、紅壱子、久保田磨希、浜村淳/後野夏陽、朝田淳弥、高畑淳子(特別出演)、佐川満男 |
公開日、上映劇場 | 2024年4月12日(金)~MOVIXあまがさき、kino cinema 神戸国際他、兵庫県先行公開、4月19日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都他、全国公開 |
~けったいな家族が奏でるけったいな不協和音~
尼崎市――。兵庫県の南東端にあり、川向こうが大阪市西淀川区。電話の市外局番が、大阪市+αと同じ「06」。こうした立地や状況から、兵庫県人には申し訳ないけれど、しばしば「大阪府尼崎市」とも呼ばれています。
ぼくの同志、阪神タイガースをこよなく愛するトラキチがぎょうさんいて、プロ野球開幕日(今年は3月29日)には早くも「143」のマジックが商店街に点灯。庶民的な雰囲気といい、限りなく「大阪弁」に近い言葉といい、浪花っ子のぼくには全く違和感がなく、すごく居心地のええとこです。居酒屋も安いし~(笑)。
本作はそんな尼崎の映画です。「あまろっく」というタイトルを見て、てっきりこの街を舞台にロックが弾けるミュージック映画と思いきや、なんと家族ドラマでした。それも常識では考えられない、けったいな家族の物語。まずあり得ない設定ながらも、大いに共感させられました。
「あまろっく」とは、尼崎港にデンと構える堅牢な「尼崎閘門(こうもん)」のこと。通称の「尼ロック」から映画の題名が付けられたそうです。どんな自然災害が起きようとも、水害から守ってくれる頼もしい存在ですが、普段は見向きもされていません。
この建造物をイメージさせるのが近松家の当主、竜太郎(笑福亭鶴瓶)です。うん? 近松? 近松門左衛門ゆかりの地にあやかっているのでしょうかね。町工場を経営する65歳の竜太郎は、妻の愛子(中村ゆり)を亡くしており、今や男やもめ。とことん能天気で、楽天家、ご近所さんと遊んでばかりしていて、いつも笑うてはります。こういうおっちゃん、たまにいますね。鶴瓶がホンマにええ味を出してはりますわ。
竜太郎は、39歳の1人娘、優子(江口のりこ)と同居しているんですが、この娘が何ともややこしい。幼いころはガリ勉で、融通が効かず、かなり直情的なタイプ。学校でも浮いています。不愛想なので、可愛げがありませんな。この手のタイプ、苦手です(笑)
時折り挿入される、若かりし頃の竜太郎(松尾諭)と愛子に育てられている幼児期の回顧シーンがほほ笑ましい。父親のええ加減さが強調されており、いかに優子が母親を慕っていたかが伺えます。その後、京都大学に進学。わっ、賢い! ボート部で活躍するも、ゴーイング・マイウエイを貫き、社会に出てからは有能なキャリアガールとして羽ばたきます。
しかし……、企業としては大きな戦力なのに、スタンドプレーが目立ち、協調性の欠如という理由でリストラに遭い、実家へUターン。ニート状態になった彼女は仏頂面に磨きがかかり、不機嫌極まりない。小学校の同級生(駿河太郎)がやっている阪神尼崎駅前の屋台で、一杯引っかけるのが唯一の楽しみというのが何とも寂しい。
そんな娘に父親がしょっちゅう投げかける言葉がこれ。「人生に起こることは何でも楽しまな!」。なかなか真理を突いたええ言葉やと思います。でも、マイナスオーラをまき散らす優子にとっては、ウザい言葉以外の何物でもありません。
この優子に扮した江口のりこ、最高でした! 「とっつきにくさ」を体の芯からかもし出しており、まさに適役。テレビドラマ『時効警察』でもよく似た役どころを演じてはりましたが、どこか楽しんでいるように見えて仕方がなかったです。
ここまでが言わば、プロローグで、このあと父親の竜太郎がいきなり再婚するところから本筋が始まります。相手はあろうことか20歳の早希(中条あやみ)!! 45歳も年下で、自分の娘よりも19歳も若い!! そんなアホなことあるんかいな。びっくりポンです。
ワケありな生い立ちと家庭環境から平凡な家族団らんを夢見る新妻は、純粋培養されたような世間知らず。年上の独身娘=優子がいるのに、よくぞ嫁入りしたものですな。娘からすれば、わが子と言ってもいいほどのうら若き子なので、とても母親とは思えない。立場が逆転してますがな。だから継母がいくら娘に接近しようとしても、この関係をスムーズにするのはかなり偏差値が高いです。
天真爛漫な家族第一主義の早希と世の中を斜に見るローンウルフ(一匹狼)の優子。価値観が真逆で、全くかみ合わない母娘関係がけったいな不協和音を生み出し、それが少しずつアンサンブルに変化していくプロセスが本作の味です。
そんな中、相変わらず、「人生に起こることは何でも楽しまな!」とのたまう竜太郎。そのお気楽気質が絶妙な潤滑油になっているのが、新喜劇的ですごくおかしい。そう言えば、中村和宏監督は吉本新喜劇の映画を撮ってはりました。そう、本作は新喜劇なんですよ。
どんなに優子に拒否されても、早希は決してめげない。その健気な姿の何といじらしいこと! そんな新妻に扮した中条あやみ、なかなか奮闘してはりました。実家の大阪市阿倍野区から母親が運転する車でロケ地の尼崎へ通っていたそうですね。そのとき、母親相手にセリフの練習をしていたとか。先日、テレビのバラエティー番組でそんなことを言うてはりました。
この映画に観心地の良さを感じるのは、ほとんど関西出身の俳優で占められているからです。鶴瓶は大阪市平野区、中条あやみは阿倍野区、江口のりこは姫路、松尾諭は地元の尼崎、駿河太郎は西宮……てな具合で、言葉の面で全くシラケさせられることがなかったです。これぞ現地・現場主義の賜物ですね。
尼崎のご当地映画『あまろっく』。ちゃんと阪神淡路大震災にも言及していて、大いに笑わせられ、時にはしんみりと……、家族の素晴らしさをホンワカとにじませたホームムービー。
いやぁ、後味がよろしおました!
武部 好伸(作家・エッセイスト)
公式サイト: https://happinet-phantom.com/amalock/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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