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『パスト ライブス/再会』

 
       

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作品データ
原題 Past Lives
制作年・国 2023年 アメリカ・韓国 
上映時間 1時間46分
監督 監督・製作総指揮・脚本:セリーヌ・ソン
出演 グレタ・リー(『マネーモンスター』『ミッシング・ガール』)、ユ・テオ(『ニューイヤー・ブルース』『めまい 窓越しの想い』)、ジョン・マガロ(『ファースト・カウ』『ショーイング・アップ』)他
公開日、上映劇場 2024年4月5日(金)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都、京都シネマ、OSシネマズミント神戸ほか全国ロードショー

 

~24年の時を超えて育まれた、人の縁について想う

 

「いつか運命の人に出逢う」な~んてことを、他人には言わないけれど、心の片すみにそっと置いていた少女時代を思い出した。それからン十年、運命の人だと信じ込んだら大きな錯覚だったことがわかり、運命の人と呼べるような人にそうそう逢えるわけがないよねと開き直り、そもそも運命の人って何よ、時間がたてばタダの人になるに決まってるじゃん…と、だんだん気持ちが斜めになっていく(でも、実はこれが真実かも)。そういう経過をたどっていく現実をひととき忘れさせ、「ええお話やなあ」と感じさせてくれたのが本作。韓国系カナダ人監督セリーヌ・ソンの長編デビュー作だが、全米監督協会賞の新人賞ほか、すでに数々の受賞を果たしていて、きめ細かな演出の手腕が光っている。


pastlives-500-4.jpg映画の冒頭、午前4時のバーで3人の男女が会話を交わしている。アジア系の男女と白人男性という組み合わせで、それを見た他の客が、この3人はどういう関係なのかをあれこれと想像している。このシーンが後半に再度登場するので、ここはじっくりと見つめておきたい。そして話は24年前の韓国ソウルにさかのぼる。泣き虫だけど負けず嫌いの少女ナヨンと、ナヨンに好意を持っている少年ヘソンは、同級でいつも一緒にいるほどに仲良しだ。でも、ナヨン一家はカナダのトロントに移住することになり、お互いの恋心を打ち明けずに別れてしまう。それから12年後、ナヨンのことが忘れられないヘソンは、ノラという英語名でニューヨークに暮らすナヨンを、ネットのFacebookで見つけたのだが…。


pastlives-500-2.jpgインターネットを介して再会するが、ふたりが面と向かって会うのはそれからまだ12年という月日が必要となる。なんでやねん、なんで会わへんの?と言いたくなるが、その会わない年月のなかで、それぞれのドラマが熟成されてゆく。ソウルから24年たって、ヘソン(ユ・テオ)は独身のまま、ノラ(グレタ・リー)はアーサー(ジョン・マガロ)という名のユダヤ系アメリカ人作家と結婚している。どちらかといえば、ヘソンのほうが相手に対する執着が強く、未練という感じすら与える。


pastlives-500-1.jpgヘソンとノラの関係性を示すために韓国語「イニョン」がたびたび出てくる。日本語で言えば、「縁」(えにし)にあたるようだし、原題のPast Livesは「過去生」あるいは「前世」だろうか。時と場所と条件が揃えば確実に結ばれていたはずのふたり。だがそうはならなかった、でも、お互いのことがとても気になる、それを横でじっと見つめるアーサー。監督自身の体験がかなり盛り込まれていると聞くが、この三角関係の機微が非常にうまく描かれていると思う。ラストシーンがまた、静かなのに印象的だ。かなわない恋、ふたつの心の間で揺れる恋、ジェラシーを封じ込めて抱きとめるおとなの恋。それらが混じり合って、なんとも切ない余韻を残してくれる。監督セリーヌ・ソンは、記憶にとどめておきたい名前だ。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://happinet-phantom.com/pastlives/

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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