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『梟-フクロウ』

 
       

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作品データ
原題 原題:올빼미/英題:THE NIGHT OWL  
制作年・国 2022年 韓国
上映時間 1時間58 分
監督 監督・脚本:アン・テジン 撮影:キム・テギョン
出演 リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン
公開日、上映劇場 2024年2月9日(金)~新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 ほかにて全国ロードショー

 

~緊迫感と映像美で畳み掛ける歴史スリラーにクギヅケ!~

 

意表を突かれた。今まで観てきた韓国史劇とひと味違って見えたのだ。座頭市を思い浮かべた訳ではないが、日本の時代劇に近い感覚だった。殺陣のシーンはほとんどないが、晒し首が出てきたり、ピンと張り詰めた緊迫感と切れ味の鋭さに何か共通するものを感じる。梟というだけあって忍びの世界観に近いのかもしれない。日本の大河ドラマ同様、韓国史劇も史実をモチーフにしたものが多く、本作も実際にあった事件を元にしている。それは朝鮮王朝時代の変死事件。


fukurou-500-1.jpgギョンス(リュ・ジュンヨル)は盲目の鍼師。病身の弟を抱えどうにか生計を立てている。侮られることもあるが、むしろそれを逆手に取って生き延びてきた。そんなある日、御医(王の主治医)に腕を買われ宮仕えをすることになる。喜び勇んで仕官すると、時を同じくして清の国に人質に捕られていた世子(王子)夫妻が8年ぶりに帰国する。夫妻の信頼を得、運が向いてきたと喜んだ矢先、世子が急死する。王宮は陰謀が駆け巡る魔窟なのか?何事も見ない聞かないを信条としてきたギョンスについに火の粉がふりかかる・・・。


fukurou-500-2.jpg何と言ってもキャストがはまっている。まず仁祖王(ユ・ヘジン)とその側室(アン・ウンジン)。ユ・ヘジンの王は意外だったが、初の抜擢だという。いわゆる王のイメージとは違うが、怪演とも言うべき独特の迫力で新しい仁祖王を作り上げた。一方のアン・ウンジンはザ・側室という感じが良い。子どもたちの演技もあざとさがなく自然でとくに世孫のひたむきさには胸打たれ、ギョンスの案内役(パク・ミョンフン)はほっとと一息つかせてくれる、と完璧な布陣なのだ。そして、主演のリュ・ジョンヨルである。盲人の演技が難しいことはもちろんだが、この役には二重の難しさがあったはず。詳細は観てたしかめて欲しいのだが、心理描写はそれほど多くなく、目の演技も制限されるのにその時々の心情が巧みに表現されている。


fukurou-500-3.jpg『王の男』(2005)で助監督を務めたアン・テジンが満を持して監督デビューを果たしたのが本作。監督がとくに力を入れたのが世子が亡くなるシーンだ。「仁祖実録」(朝鮮王朝実録)に記載のあった”薬物中毒で亡くなった男”という一文からスリラーを思いついたというが、この場面の緊張感と妖しさ、光と闇が交錯する衝撃的な映像表現に息をのむ。また、ろうそくの明滅が場面転換の役割も果たして、話に小気味よいリズムを作っている。


fukurou-500-4.jpgそして、最も心をつかまれたのは捕らえられたギョンスが天を仰ぐシーンだ。これには鳥肌がたった。この作品の見せ場のひとつと言っていいだろう。歌舞伎の舞台であればまちがいなく大向こうから声がかかるにちがいない。その後の暗転も効果的で、多くを語らないことでかえって思いが凝縮され凄みが増した。からくり屋敷のような通路を逃げまどうシーンも秀逸でカットの一つひとつに無駄がなく、ラスト10分の畳み掛けもみごとだった。タイトルのフクロウに込められた意味のほか、コウモリを思い浮かべたくなる面もあり、いずれも闇に生息する生き物、謎めいていて見る者を惹き付ける。何度も観たくなる芸術性の高さで本国での観客動員数1位、25冠の記録にも納得、年始から大当たりの1本だ。

 

(山口 順子)

公式 HP: fukurou-movie.com
公式 X:@showgate_youga
配給:ショウゲート
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