原題 | 原題 Cerrar los ojos 英題Close your Eyes |
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制作年・国 | 2023年 スペイン |
上映時間 | 2時間49分 |
監督 | 監督・製作・原案・脚本:ビクトル・エリセ(『ミツバチのささやき』『エル・スール』) 撮影:バレンティン・アルバレス |
出演 | マノロ・ソロ(『コンペティション』『静かなる復讐』)、ホセ・コロナド、アナ・トレント、ペトラ・マルティネス、マリア・レオン、マリオ・パルド、エレナ・ミケル、アントニオ・デチェント他 |
公開日、上映劇場 | 2024年2月9日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
~人生の苦味と優しさ、そしてたっぷりの映画愛を紡ぐ名匠の新作~
ビクトル・エリセ監督のこの作品とふれあった時間はとても濃密で、私の心の中にある小さな扉が一つひとつ丁寧に開けられたようだった。それはもちろん大きな錯覚なのだけれど、そういう錯覚を引き起こすなんて、映画って凄い、そしてエリセ監督って凄いなあと思う。だけど、オムニバス作品を除けば、『ミツバチのささやき』(1973年)、『エル・スール』(1983年)、『マルメロの陽光』(1992年)以降、ぴたっと音沙汰なしで、本作は31年ぶりの長編映画。スペインの巨匠と呼ばれつつも、50年間で長編はわずか4作、実に寡作の人なのである。
お話は、豪華な屋敷で始まる。その主が目つきの鋭いひとりの男を招き、遠い昔に別れた娘を探してほしいと依頼するのだが、この冒頭のシーンは本筋でなく、映画として撮影されたものだということがわかってくる。主人公はその映画『別れのまなざし』を監督したミゲル・ガライ(マノロ・ソロ)で、撮影中に失踪した主演俳優であり親友でもあったフリオ・アレナス(ホセ・コロナド)について証言するため、あるテレビ番組に出演することになった。これを機に、ミゲルは自分の歩んできた道を再びたどり、フリオとの思い出をよみがえらせるのだが、思いがけない知らせが舞い込んでくる。
男ふたりの俳優も好演しているが、何といってもアナ・トレントである。当時5歳で『ミツバチのささやき』のヒロインに抜擢され、フランケンシュタインの存在を信じる純真で愛らしい少女を演じた彼女が、50代後半になって(上品なマダムって感じになって)エリセ監督作品に帰って来た。それも、“アナ”という名前で!失踪したフリオの娘役で登場するのだが、昔の面影を彷彿とさせる瞳に引きつけられる。
身を隠してどこかで生きているのか、それとも死んでしまったのか。フリオの行方を探す旅は、ミゲル自身の過去を掘り起こし、人生の意味を求める旅となっていく。自分に起こる出来事をドキュメントとして見るのか、ドラマとして見ようとしているのか。それがその人の一面を照らし出す。ミゲルはドキュメントを追いかけ、フリオはずっとドラマを見ていたかったのではないだろうか。
エリセ監督は、後半に、映画好きの心をくすぐるエピソードや道具を用意する。ミゲルの昔の仕事仲間で、大量の映画フィルムを管理している初老の男性が出てくるのだが、彼が今の映画の状況について語る言葉、閉館した田舎町の映画館、その映画館に残されている立派な映写機、そしてそこに持ち込まれ上映される未完成の映画『別れのまなざし』…。あかん、『ニュー・シネマ・パラダイス』やないのというぐらいの映画愛の熱量だ。しかも、けっこう直球であるのには驚いた。その後に待っているラストシーンが意味するものについて、じっくりとあれこれ想像していただきたい。長いどころか、終わってほしくないと感じた2時間49分だった。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/close-your-eyes/
配給:ギャガ
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