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『カラーパープル』

 
       

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作品データ
原題 Color Purple
制作年・国 2023年 アメリカ 
上映時間 2時間21分
原作 アリス・ウォーカー(ピューリッツァー賞受賞『カラーパープル』集英社文庫刊)
監督 監督:ブリッツ・バザウーレ(『コ ジョーの埋葬』) 撮影:ダン・ローストセン(『シェイプ・オブ・ウォーター』『ナイトメア・アリ ー』) 音楽:クリス・バワーズ 振付:ファティマ・ロビンソン 製作:オプラ・ウィンフリー、スティーヴン・スピルバーグ、スコット・サンダース、クインシー・ジョーンズ
出演 ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴ、コーリー・ホーキンズ、H.E.R、ハリー・ベイリー他
公開日、上映劇場 2024 年 2 月 9 日(金)~大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ梅田、なんばパークスシネマ、全国のTOHOシネマズ系、イオンシネマ系、109シネマズ系、MOVIX系など全国ロードショー


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~自己発見から「独立」を目指す黒人女性の生きざま~

 

アメリカ国内の黒人(アフリカ系アメリカ人)の比率は約12%ほどですが、奴隷から始まった悲しい歴史と激しい差別によって彼らの存在感はかなり際立っています。映画でもしかり。黒人を描いた映画は文句なくエネルギッシュでインパクトがあり、ズシンと腹に堪えます。


colorpurple-500-6.jpg本作『カラーパープル』はその典型的な作品です。オリジナル作は、1985年、今や巨匠となったスティーヴン・スピルバーグ監督が39歳のとき、それまで撮り続けてきたエンタメ路線とはうって変わり、初めてチャレンジした本格的なヒューマン・ドラマの映画でした。

ぼくはすごく感銘を受けましたが、黒人の苦しみをユダヤ人(白人)がわかるのかとえらい反発を受けていましたね。妬みやったんかな……。


リメイクされた本作では、スピルバーグが製作側に回り、アフリカ・ガーナ生まれのブリッツ・バザウーレ監督を起用し、ミュージカルとして甦らせました。「えっ! あのシリアスな物語に歌を付けるんかいな、アカンやろ」とぼくは内心、拒否反応を示していたんですが、それがすべて杞憂に終わりました。


colorpurple-500-1.jpg1909年、南部ジョージア州が舞台。あの不朽の名作『風と共に去りぬ』(1939年)もそうでしたね。主人公のセリーは、心優しい母親が亡くなってから、横暴な父親の支配を受け、最愛の妹ネティと暮らしていましたが、やがて父親の勧めでミスターという子持ちの男と結婚させられます。


この男、バンジョーを弾き語るのが好きで、一見、好人物に思えました。その実体はしかし、妻のセリーを奴隷のごとくこき使い、自分が家庭の独裁者であることを誇示する、とんでもない輩でした。彼女の父親もそうであったように、当時、とりわけ南部の黒人家庭は家長主義に根差しており、男尊女卑が徹底されていたんですね。


colorpurple-500-7.jpg白人から差別を受けていた黒人男性は、そのはけ口を家庭の女性に向けていましたが、黒人女性は白人だけでなく、家庭内で夫や父親からも差別されていたんです。映画を観れば、彼女たちが日々、びくびくしながら暮らし、人権を全く無視した扱いを受けているのがよくわかります。日本でもひと昔前はそうでしたが、レベルが違いすぎます!


やがて、心の支えであったネティとも生き別れたセリーは、母親から教わった裁縫を生きるための「武器」として磨きをかけ、非常に厳しい状況の中、「独立」に向けて少しずつ地歩を固めていきます。それは男性に依存しない生き方そのものです。


colorpurple-500-8.jpg前回、紹介したイギリス映画『哀れなるものたち』と同様、この映画に登場する男連中は自己中の「ダメ男」ばかり。それこそ、「哀れなるものたち」です! だから両作のテーマ性はよく似ています。自らの体験に基づき、本作を書き上げた女性作家アリス・ウォーカーが、これまでほとんど知られなかった男社会の中で闘う黒人女性像を鮮烈に描き上げたことで、ピューリッツァー賞を受賞し、一躍、有名になりました。


だから、本作もフェニミズムの立場で撮られた作品です。激しい差別と抑圧に甘んじることなく、プラス志向で生きている人間は強いですね。セリーは、自立した女性ソフィーや歌手として名を挙げたシュグら、次々とパワフルな女性たちと出会い、その過程で次第に「自己発見」していくのです。そして秘められた能力を発掘していきます。その姿がたまらなく眩しい!


colorpurple-500-4.jpg物語が重い空気に浸ってくると、シブいバラード調子のサウンドが流れ、ハートに響く歌をしっとりと聴かせてくれます。その一方で、いきなり活力あふれる音楽に合わせ、登場人物が躍動的に踊りながら熱唱します。音楽のメリハリが効いており、決して物語の邪魔にはなりません。いや、むしろ得も言われぬパワーをドラマに与えています。


特筆すべきなのが、セリー役を熱演したファンデイジア・バリーの歌唱力! 演技力もさることながら、とにかく歌が巧い。魂の叫びを熱唱するのだから、文句なく聴き惚れさせます。ブロードウェイ・ミュージカルの当たり役だったので、セリーを演じられるのはこの人しかいませんね。


colorpurple-500-2.jpg他にも歌手シュグ役のタラジ・P・ヘンソンも表現力が素晴らしい。あの横柄なミスターに扮したコールマン・ドミンゴのバンジョー弾き語りも絶品でした。味がありました。そう言えば、この男の歌で物語が始まっていました。


再びストーリー展開の話に戻すと、サブ・プロット(脇筋)ともいえる、セリーとネティの姉妹関係が重要性を帯びてきます。こんなに密な姉妹は珍しい。互いに厳しい状況を生き抜く「同志」であり、ほかに信頼を置ける人物がいなかったからでしょう。そこに里子に出されていたセリーの子どもが深く絡んでくる結末が何とも感動的です。ドラマトゥルギー(作劇法)として申し分ありません。


悲しい物語なのに、ラストの爽快感は半端ではありません。いやぁ~、芯のあるミュージカルでした。

 

武部 好伸(作家・エッセイスト)

公式サイト: https://wwws.warnerbros.co.jp/colorpurple/

#映画カラーパープル

配給:ワーナー・ブラザース映画

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