心の傷をさらけ出し、解放し、つながっていく。

小さくとも希望の灯をともす物語

PMS（月経前症候群）で、イライラが高じると他人に怒鳴り散らすこともある藤沢さん（上白石萌音）。周囲はどっきり。変人扱いされ、仕事もうまく回せないから、辞表を提出したらあっさり受理された。そんな彼女が次に職を得たのは栗田科学という名の小さな会社。温厚で情に厚い社長（光石研）のもと、まるで家族のような雰囲気を育んでいた。そこへ、山添くん（松村北斗）という青年が加わるのだが、周囲に溶けこもうとせず全くやる気を見せない彼に、藤沢さんは荒々しい感情をぶつけてしまう。だが、山添くんがパニック障がいという問題を抱えていることを知った藤沢さんは……。

瀬尾まいこの同名小説を、『きみの鳥はうたえる』（2018年）や『ケイコ 目を澄ませて』（2022年）の三宅唱監督によって映画化したもの。昔はPMSという言葉を聞いたことがなく、“ブルーデイ”という表現で、イライラしたりぼーっとしたりする心身の不調を女子同志でわかり合っていた。この映画の藤沢さんみたいに過激になってしまう人もいただろうが、「生理だから仕方がない」と本人も周囲も諦めていたように思う。そういう時代に比べ、精神的な不調を抱え、医師から病名を与えられている人が増えているように感じるので、とても現代的で切実なお話だと受けとめた。

大きなドラマがあるわけでもない。特にどうってことのない日常の小さな出来事が綴られていく。それをじっと追いかけているうちに、胸の内にこみあげてくるものがある。小さいけど当人にとっては大変なこと、でも、それらがふれあい、交差して生まれる光。これはかけがえのないものなのだ、と。静かで、淡々として、そして優しい。

最後のほうで、重要なエピソードを語る道具として移動式プラネタリウムが出てくる。藤沢さんがナレーションを務めるのだが、ほっこりとした上白石萌音の声による言葉の一つひとつが、まさに“星のきらめき”のよう。この映画はこの場面のために作られたといっていいほどに感動を呼ぶ。そして、その後の「それでも人生は続く」と言っているかのようなさりげない風景が柔らかな後味を感じさせてくれて、この落差を受け入れながら前を向いて進む…これが生きるということなのだと改めて思うのだ。

（宮田 彩未）

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配給：バンダイナムコフィルムワークス アスミック・エース

©瀬尾まいこ／2024「夜明けのすべて」製作委員会