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『99%、いつも曇り』

 
       

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作品データ
制作年・国 2023年 日本 
上映時間 110分
監督 ・脚本:瑚海みどり
出演 瑚海みどり、二階堂 智、永楠あゆ美
公開日、上映劇場 2024年1月19日(金)までシアターセブン、1月29日(月)~2月1日(木)までアップリンク京都、2月3日(土)より元町映画館で1週間限定公開
受賞歴 第17回 田辺・弁慶映画祭のコンペティション部門でグランプリを含む5冠

 

~人生の凸凹を共に愛して~

 
 発達障害グレーゾーンやアスペルガー症候群と聞くと、中学時代に特別指導教室でのテストの結果、そう診断された我が息子のことが頭をよぎり、つい本作の主人公、一葉の一挙手一動から目が離せなくなってしまった。ここだけの話も忖度もできない。真っ直ぐすぎる性格は、時に自己中心だとか、ワガママだと言われるが、その言動がそんなに悪いのか。面倒を避け、空気を読んでやり過ごす人がほとんどの中、体当たりで自分の思いや疑問をぶつけてくる姿は、若干鬱陶しく感じるかもしれないが、とても人間らしい行動だとつくづく思った。俳優の瑚海みどりが自ら監督・脚本を手がけ、アスペルガー症候群の中年女性とその夫が子どもを巡り、お互いの本心をさらけ出して受け止めるまでの葛藤を、正面突破で描いていく本作。現代の不条理やハラスメントへの怒りをしっかりとまぶし、それをぶちのめすパワーに思わずガッツポーズしたくなる。
 
 
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 冒頭から、母の一周忌の場で、なんの悪気もなく「もう子どもはつくらないのか」と聞く叔父。あくまでも一般論という感じでしつこく聞くこの叔父の姿に、かつての自分も重なって胸が苦しくなった。同じ子どもを持つ親どうしのコミュニティの中にいたわたしは、この叔父のように結婚している知り合いに子どもはと軽々しく聞いていたのだ。子どもを作る/作らないという夫婦のプライベートな問題は当事者同士でもなかなか本音を話しづらい。周りから煽られたら、ただプレッシャーが募るだけ。過去の自分を反省しながら、失敗続きでも毎日を全力で生きる一葉と、たった一人しかいない家族である妻、一葉を心理的に支える大地の夫婦生活を見つめるのだ。
 
 
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 もう生理が終わったので出産は無理と言う一葉。日頃私たちがするような生理をめぐる中高年女性の日常会話が入っているのも好感が持てる。その一方で、若き日の一葉が妊娠し、大地がとても喜んでいたのに流産してしまった過去も明かされる。産んでしまえば育てる踏ん切りがつくが、産むまでは誰だって不安だ。特に自分の障害が遺伝することを恐れる一葉の気持ちは、究極的に言えば当事者しかわかりえない。そんな日頃覆い隠している部分もさらけ出しながら、夫婦が向き合うまでが実感をもって描いているのがとてもいい。人間誰だって凸凹がある。その凸凹だらけの人たちが助け合って生きる姿は、何よりも尊い。そんな光を見せてくれる力作。大阪のおばちゃん顔負けのカラフルな柄物ルックで、服装も個性が爆発している一葉に、逆に自分の殻を破ってこいと励まされているような気もした。
(江口由美)
 
公式サイト⇒https://35filmsparks.com/ 
(C) 35 Films Parks
 
 

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