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『哀れなるものたち』

 
       

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作品データ
原題 原題:POOR THINGS  
制作年・国 2023年 イギリス
上映時間 2時間21分 R-18
原作 アラスター・グレイ「POOR THINGS 哀れなるものたち」(早川書房刊)
監督 監督:ヨルゴス・ランティモス (『ロブスター』『聖なる鹿殺し』『女王陛下のお気に入り』) 脚本:トニー・マクマナラ  撮影:ロビー・ライアン 美術:ジェームズ・プライス 、ショーナ・ヒース 衣装:ホリー・ワディントン 音楽:ジェルスキン・フェンドリックス
出演 エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、ジェロッド・カーマイケル、クリストファー・アボット 、ハンナ・シグラ ほか
公開日、上映劇場 2024 年 1 月 26 日(金)~大阪ステーションシティシネはじめ、全国のTOHOシネマズ系、MOVIX系、イオンシネマズ系など全国公開!
受賞歴 第80回ヴェネチア国際映画祭(2023)金獅子賞受賞(ヨルゴス・ランティモス)

 

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~自由を求めた女性版「フランケンシュタイン」の成長譚~

 

何とも猟奇的で、グロテスクな世界――! 映画が始まってしばらくの間、どちらかと言えば、あまり見たくないという気持ちに包まれていたのに、気が付けば、どっぷりハマっていました。そんな物凄いエネルギーをはらませた、誠に不思議なドラマでした。


awarenaru-pos1.jpg何せ、エマ・ストーン扮するヒロインのベラがぎこちない仕草を見せ、まともに歩けず、食べたモノをあちこちに吐き捨てていくのですから。正直、嫌悪感すら抱きました。しかも、同居している初老の男の顔がツギハギだらけ! ウィレム・デフォー扮する外科医のゴッドウィン・バクスターです。すべてモノトーンゆえに、不気味さがいっそう際立ってきます。


19世紀末のロンドンにある広々とした、寒々しい豪邸。そこで暮らすこの2人は親子なのか? どうして彼女はまともに言葉を発することができないのか? なぜ男は尊大な態度を取り続けるのか? いろんな疑問が浮かんでくるうち、少しずつ映画の背景が浮き彫りにされてきます。


つまり、ベラは、体が大人なのに、生まれたての赤ん坊だったのです。バクスターが実験で作り出した「人造人間」~! まるでフランケンシュタインですがな。そのからくりを言うと、種明かしになってしまうので、ここでは言及しませんが、この外科医は、倫理規範を無視して、こうしたクリーチャーの開発に余念がないのです。正気の沙汰ではありませんね。


そのバクスターが、自ら生み出したベラに愛情を抱いています。家族愛なのか、それとも恋愛感情なのか? はて、微妙なところです。さらに彼女の成長の様子をチェックするために雇った助手(教え子)のマックス(ラミー・ユセフ)もベラに惹かれていきます。あれっ、これって恋愛映画なのか? 彼女のどこに魅力があるんやろ? そんなことを思っていたら、次の段階でまったく別のベクトルを放ち始めます。


awarenaru-500-1.jpgこのヒロインが旅立つのです。その瞬間、モノクロからカラーへと映像が変わります。この時点では、ベラはティーンエージャーの娘のようで、どことなく艶っぽさが出ています。一人旅ではなく、弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)を伴ってですが、この男が傲慢で、自己中、しかも女性蔑視ときている。ベラを性の道具として弄ぶのですから、品性極まりない。


実は、リスボンへ向かったこの船旅から、映画のテーマがどんどん顕在化してきます。どういうことかと言うと、男性中心の抑圧された、かつ閉塞感のある社会で、日ごと成長していくベラが自立し、自由を求めて邁進していくプロセスを捉えていることです。彼女は女性の象徴とも言えます。新しい知識をどんどん吸収し、いろんな知恵を覚え、見違えるほど洗練されていきます。


awarenaru-500-2.jpg船上で年配のドイツ人女性マーサ・フォン・カーツロック(ハンナ・シグラ)との出会いで、知性に目覚めていくところがとりわけ印象深いです。その後、これまで想念になかった〈貧困〉を目の当たりにし、世の中の現実に目覚めてさらに一皮剥けていきます。それに対し、バクスターやダンカンら男連中は同じことを繰り返しており、ちっとも進歩がありません。


そして紆余曲折の末、ベラがパリに流れ着き、売春宿で娼婦として働いたところで、ある意味、ゴール地点に達します。そこで望みのままセックスに明け暮れ、欲望の赴くままに生きる男たちの素性を知るのです。身を売ることに対し、開き直っているというか、その自由を謳歌しているようにすら思え、罪悪感なんて全く持ち合わせていません。知性・好奇心・活力を完璧に身に付けた、パリにおける彼女が一番、生き生きしていましたね。


awarenaru-500-3.jpg未発達な人間から成熟した大人へと成長するベラの姿が、こだわり抜いた絵画的な映像の中で描かれていきます。理屈抜きに美しい! 調度品や小道具も際立っています。すべてスタジオのセットで作られた造形美。かくも丁寧に構築された映像を観るのは久しぶり。ギリシア人のヨルゴス・ランティモス監督の手腕に唸らされました。


原作は、英スコットランド人の作家、アラスター・グレイ(1934~2019年)の同名小説。全く知らない人です。それにしても、よくもまぁ、こんな大胆、かつ奇抜なストーリーを編んだものですね。タイトルの「哀れなるものたち(Poor Things)」は、男たちのことなのでしょう。ランティモス監督がそれを見事に映画化してくれました。


awarenaru-pos2.jpg後段、いかにしてベラが生み出されたのか、その経緯が明かされます。あゝ、おぞましい、おぞましい。欲望をむき出しにする男性に対する痛烈な風刺がそこに描かれています。慎ましい女性像が良しとされたヴィクトリア朝時代のイギリスの物語ですが、今の時代にも通用するところがありますね。


最後になりましたが、主演エマ・ストーンの演技に圧倒されました。かなり難しい役どころなのに、難なくこなしており、風格すら備わっていました。35歳。これからますます脂が乗り切ってくるでしょう。バクスター役は、ウィレム・デフォーしか考えられませんね。あの不快感がたまらない。どこまでが作りモノのシワなのかわからなかったです、ハハハ(笑)


新年早々、こんな壮大なドラマが公開されるとは……。2024年も観ごたえのある映画を期待できそうです。

 

武部 好伸(作家・エッセイスト)

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配給:ディズニー

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