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『駒田蒸留所へようこそ』

 
       

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作品データ
制作年・国 2023年 日本 
上映時間 1時間31分
原作 KOMA復活を願う会
監督 監督:吉原正行  脚本:木澤行人、中本宗応
出演 声:早見沙織 小野賢章
公開日、上映劇場 2023年11月10日(金)~TOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズなんば TOHOシネマズ二条 OSシネマズ神戸ハーバーランド ほか全国公開


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~〈ウイスキー愛〉がほとばしる蒸留所再建の物語 ~

 

ぼくの執筆テーマの1つが「洋酒」です。とりわけ我が人生に大きな刺激を与えてくれたウイスキーに焦点を当て、これまでに『スコットランド気まま旅 モルト・ウイスキーの故郷へ』(1990年、私家版)、『ウイスキーはアイリッシュ ケルトの名酒を訪ねて』(1997年、淡交社)、『ウイスキー アンド シネマ 琥珀色の名脇役たち』(2014年、同)、『ウイスキーアンドシネマ2 心も酔わせる名優たち』(2017年、同)などの本を上梓しました。すんません……、PRしちゃって(笑)。だから、本作は必見でした。


ウイスキーそのものを扱った映画といえば、ウイスキーに目覚める青年の物語『天使の分け前』(2013年)と、座礁した貨物船から島民がウイスキーをネコババする『ウイスキーと2人の花嫁』(2018年)を真っ先に思い浮かべます。どちらもスコッチ・ウイスキーで、英国スコットランドが舞台でした。


komada-500-8.jpg本作はもろにジャパニーズ・ウイスキー! もちろん日本の物語です。しかもアニメ!NHK朝の連続テレビ小説『マッサン』(201415年)は国産ウイスキーに的を絞ったドラマでしたが、アニメや映画はこれが初めてだと思います。


アップで映し出されたウイスキーのロック――。試写室でこの冒頭シーンを目にし、思わずときめいた! いきなり心を鷲掴みにされた感じでした。全編、ウイスキーの蒸留所やボトルが頻繁に映りますが、グラスの光沢や氷の輝きなど精緻極まる描写で、吃驚しました。3D技法を巧みに使っているようで、臨場感満点です。


komada-500-3.jpg舞台となるのは、信州と思われる山間部にある日本酒メーカー、御代田酒造の駒田蒸留所。経営難で過労死した父親の後を継ぎ、美大を中退して社長に就任した娘の駒田琉生(声・早見沙織)が、蒸留所の再建と、断念していた原酒を今一度生み出し、かつての代表的なブランド「独楽(KOMA)」を復活させようと奮闘します。鼻が利く彼女はマスター・ブレンダーとしても知られています。


komada-500-1.jpg同蒸留所の営業・広報担当、河端朋子(内田真礼)が、プロモーションの一環としてニュースサイトの新米記者、高橋光太郎(小野賢章)に蒸留所での体験記事を書かせようと提案します。ところがこの青年、ウイスキーはおろかお酒の知識がゼロで、学習する意欲もありません。自分のやりたいことを見出せず、会社を転々としてきており、辞めることばかり考えています。


komada-500-2.jpgこの仕事をイヤイヤ引き受けた光太郎が、言わば「狂言回し」として、〈幻のウイスキー〉再生への道のりがドラマチックに描かれていきます。本来なら、社長を継がねばならないのに、別の蒸留所で働いている琉生の兄、圭(中村悠一)と彼女との確執がサブプロットとして効いています。そして、「独楽」がいかに駒田一家にとって大事なウイスキーであるのかが浮き彫りにされてきます。だからこそ、琉生は使命感を持って奔走するのです。


komada-500-7.jpgなよなよしていた光太郎が体験ルポを取材し、連載記事を書き続けていくうちに、だんだんウイスキー造りの奥深さに魅了され、逞しくなっていきます。まぁ、予定調和的な展開ですが、この若者が気難しいウイスキー職人たちに溶け込み、各地の蒸留所を巡っていく姿が、心地よい成長譚として観させます。


蒸留所内のシーンが映った時、富山県砺波市の三郎丸蒸留所(若鶴酒造)のそれと同じだとすぐに気づきました。クラフトファンディングで建造された施設と2器の蒸留器(ポットスティル)もそのまま描写されています。ぼくは昨年8月に見学したので、鮮明に記憶に残っているんです。


komada-500-5.jpg物語はオリジナルですが、5つの蒸留所をモデルにしているようです。具体的に記すと、三郎丸蒸留所、茨城県那珂市の八郷蒸留所(木内酒造)、滋賀県長浜市の長濱蒸留所(長濱浪漫ビール)、長野県上伊那郡のマルス信州蒸留所(本坊酒造)、そして、「イチローズモルト」で知られる埼玉県秩父市の秩父蒸留所(ベンチャーウイスキー)。


かつて日本でウイスキーと言えば、サントリー、ニッカ(アサヒ)、キリンの大手酒類メーカーの商品がほぼ独占していましたが、前述した『マッサン』の影響もあり、2015年ごろから、品質の良さでジャパニーズ・ウイスキーが海外で人気を博し、国内でもハイボールがどんどん飲まれるようになり、にわかに「ウイスキー・ブーム」が巻き起こりました。値段が吊り上がり、人気ブランドは原酒が底をついてボトルがなくなるという異常事態になったのですから、驚きです。


komada-500-6jpg.jpg日本酒メーカーや新規参入者らによって、国内のあちこちに蒸留所が建造されています。そこから生まれるウイスキーが、以前は「地ウイスキー」、昨今は「クラフトウイスキー」と呼ばれています、今年9月現在で、何と86か所も稼働~!! 小さな日本にこんな多くの蒸留所がなんで必要やねん。海外市場を狙っているとはいえ、明らかに多すぎますわ。最低3年間の熟成を経て商品化されますが、そのうち淘汰されていくような気がしています。


ぼくはアニメに明るくないので、プレスシートに頼ると……。この作品を手がけたアニメ制作会社P.A.WORKSは本社が東京ではなく、富山県南砺市というのが何ともユニークです。近くに三郎丸蒸留所があり、そんな地縁的なことも本作の制作に大きく関わっているようです。ウイスキー造りの監修は、三郎丸蒸留所の代表、稲垣貴彦氏。


komada-500-4.jpgP.A.WORKSは、旅館再建に取り組む『花咲くいろは』(2011年)、祭りで町興しをする『サクラクエスト』(2017年)など、「働くこと」をテーマに日々、奮闘するキャラクターを描いた「お仕事シリーズ」をテレビ用に制作しています。今回はその劇場版です。


確かに本作でも、登場人物の「ひたむきさ」とウイスキー造りにかける情熱がビンビン伝わってきました。ストーリー展開が巧みで、ドラマとしてもよく出来ています。それにウイスキーの製造工程もよくわかるので、初心者にはうってつけかも。


komada-500-9.jpg全編に溢れる〈ウイスキー愛〉……。当然ながら、観終えて帰宅後、某ジャパニーズ・ウイスキーを味わいました。あゝ、ええ塩梅や~。


蛇足ですが、実写映画なら、独断でこんな配役を考えました。琉生は広瀬すず、光太郎は岡山天音、兄の圭は吉沢亮、営業・広報ウーマンは杉咲花。異論、ありますか?(笑)

 

武部 好伸(作家・エッセイスト)

公式サイト:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/

配給:ギャガ

©2023KOMA復活を願う会/DMM.com

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