制作年・国 | 2023年 日本 |
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上映時間 | 2時間14分 |
原作 | 朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊) |
監督 | 監督:岸善幸(『二重生活』『あゝ、荒野』『前科者』) 脚本:港岳彦 撮影:夏海光造 音楽:岩城太郎 |
出演 | 稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司他 |
公開日、上映劇場 | 2023年11月10日(金)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば本館・別館、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸ほか全国ロードショー |
~覚悟して観てほしい、あなたがどちら側の人間なのかと鋭く問われる~
この映画の余韻がじわじわと心の奥底に届いた。登場人物はさまざまだが、そのなかでマイノリティとみなされる人たちに強烈な共感を覚えた。私も“そっち側”だよと言いたくなった。朝井リョウの同名小説を映像化したもので、ダイバーシティが叫ばれる現代にあって、ダイバーシティってほんまに理解されているのだろうか、単なる建前に過ぎないのではという批判をこめた秀作だと思う。
稲垣吾郎が演じるのは、横浜地方検察庁に勤める検事で、この人、頭がガチガチに固い保守的人間。小学生の息子が不登校になり、インフルエンサーに感化されて自分も動画配信をしたいと言うと断固として却下。なぜ息子がそうしたいのかも理解しようとしない。新垣結衣扮する夏月は、広島のショッピングモールで働いている寝具の販売員。“フツーに”結婚して子どもを産み育てることが女性の幸せという考え方を、一方的に押し付けてくる人につい反発してしまう。「明日生きていたいと思う人たち」との間に溝を感じる佳道を、最近引っ張りだこの磯村勇斗が演じている。
夏月と佳道は同じ中学校に在籍していたことがあり、“水”に関わる想い出を共有していることがわかってくる。この三人に加え、男性恐怖症なのに、世の中を斜に見ている男性ダンサーに心を注ぐ女性が出てきて、それぞれの人生がゆっくりと近づき、交差してゆく。
私の胸をいちばん突いたのは、先にも述べた佳道の「明日生きていたいと思う人たち」と自分を切り離している彼の在り方だ。誰だって明日生きていたい、それどころか10年先、20年先も、もっともっとできるだけ長く生きていたい、もちろんちゃんと元気でボケずに生きていたい、そのために食生活に気を配り、適度に運動し…なあんて言いたくなるなら、明らかにマジョリティだ。それが正しくて、フツーであると信じているなら、佳道や夏月のような人たちのことはけして理解できないと思う。夏月の「生き方のカタチが違う」とか「地球に留学しているような気持ち」という他者とのズレも、佳道と共通するものだ。
そして、この社会には、思想であれ性的指向であれ生き方そのものであれ、そのような違和感を持つ人々がいて、圧倒的多数派の前で自分らしさをさらけ出せないでいる。それだけでなく、パワハラのターゲットになったりもするのだ。映画は、何ということもなく当たり前に動いていると見せかけている社会の暗部を、巧妙な語り口で引っぱり出して見せてくれる。
この物語には“水”が隠れたファクターとして作用し、それが、今日的犯罪としてニュースでよく取り上げられる幼児性愛や盗撮と絡んでいく。そういう犯罪に断固として戦うんだと、正義の旗印を振り上げる検事に向けられた夏月の言葉。ここに人生の真実があり、そして壁がある。そのことにいたく心が動くのだ。
(宮田 彩未)
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配給:ビターズ・エンド
©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会