制作年・国 | 2023年 日本 |
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上映時間 | 1時間39分 |
監督 | 監督:前田弘二(『婚前特急』『夫婦フーフー日記』『まともじゃないのは君も一緒』) 脚本:高田亮(『さがす』『死刑に至る病』『グッバイ・クルエル・ワールド』) 音楽:モリコネン |
出演 | 悠貴 芋生悠 成田凌 宇野祥平 川瀬陽太 奥野瑛太 高田里穂 松井愛莉 |
公開日、上映劇場 | 2023年10月27日(金)~新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、出町座、シネ・リーブル神戸 ほか全国公開 |
~軽い語り口だけど見応えたっぷり!<おかしな二人>のメロドラマ~
前田弘二監督の新作は『まともじゃないのは君も一緒』(2021)に続いての高田亮脚本<おかしな二人の物語>第二弾である。第一弾ですっかりはまってしまったので、今度はどんな味付けなのかワクワクしていた。
どことなく浮世離れした植木屋のトワ(倉悠貴)はコンビニ店員の園子(芋生悠)のことが何か月も前から気になっている。周囲にも隠すことなく彼女への思いを語るトワがいよいよ告白というときに選んだ方法は、コンビニから公園まで木の葉を並べておくというもの。仕事帰りの園子がトワの元へ葉っぱを辿ってくるだろうという算段だ。なんとも懐かしいこの感じ。童話ヘンゼルとグレーテルではパンくずを小鳥が食べてしまうのだが、はてさてどうなることでしょう?
こんなファンタジーな始まりだが描いていることは現実社会そのもので、一番心に響いたのは終始ほのぼのとしているトワの破壊衝動である。おおげさと言われるかもしれないが『TAXI DRIVER』(1976)を思い出した。もっともトワはトラビスのように計画を練る訳ではない。ただ、平凡な人間が一線を越えるかもしれないところにシンクロニシティを感じたのである。
トワは古い雑誌の切り抜きを常にポケットに入れていて、仕事場でも気ままに記事の内容を話し始める。年長の大沢(川瀬陽太)は軽くいなすが、あるとき脇坂(奥野瑛太)にキレられてしまう。仕事中というのは別にしても世間話を聞くのは意外と難しい。元々興味のある内容なら聞けるし相手の人間性もあまり気にならない。しかし、どうでもいいような話となると相手に対する一定の理解と関心がないと聞けないのである。しかしトワには怒られた理由が分からない。そして生まれる小さなささくれ。脇坂の気持ちもわかる。その辺りがとても自然に描かれている。誰も悪くなくても諍いが起こるのが人間社会なのだと…かなりトワ寄りに物語を眺めていたのだが、園子には園子の向き合うべき現実があった。
トワと世間の周波数は少しずれているようだけど、園子と話した時だけはクリアになる。二人のテンポはすこしスロー。変てこりんなようだけどどこかにいそうにも思える、そんなトワと園子にスクリーン越しに会ってみてほしい。そして、この作品が気に入ったら『まともじゃないのは君も一緒』もぜひに。本作とは対照的に会話は嚙み合わないのに息はピッタリでテンポは速いのに聞いていて疲れない。本作でトワを囲むおじさんたちとも会えるし、両作品の主役二人のキャラクターが逆になっているところにもフフフとなります。
依存は自立の反対語のように捉えがちだけど、人間の発達において欠かせないステップ。愛着と言い換えると分かり易いかもしれない。幼児は特定の大人(保育者)との愛着関係を築くことでそれを他の人に応用していけるようになる。孤立が起きやすい現代では大人も依存先(所属先)を複数持っておくと良いそうな。ひとつに寄りかかり過ぎると失ったときに倒れてしまうがいくつか持っておけばバランスが取れるということだ。なるほど、なるほど。サークルを掛け持ちする感覚かもしれない。そんな生きるヒントも隠されている。作中でふたりが歌う唄もコミックソングかな?と背もたれに背中を預けながら聴いていたら、知らず知らずのうちに身を乗り出して聴き入っていた。
(山口 順子)
公式サイト:http://koimitsu.com
制作プロダクション:ジョーカーフィルムズ、ポトフ
企画・製作・配給:ジョーカーフィルムズ
©JOKER FILMS INC.