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『ダンサー イン Paris』

 
       

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作品データ
原題 EN CORPS 
制作年・国 2022年 フランス・ベルギー/フランス語・英語
上映時間 1時間58分
監督 脚本・監督:セドリック・クラピッシュ(『猫が行方不明』『スパニッシュ・アパートメント』『ロシアン・ドールズ』『パリのどこかで、あなたと』) 共同脚本:サンチャゴ・アミゴレーナ 振付・音楽:ホフェッシュ・シェクター 撮影:アレクシ・カヴィルシーヌ
出演 マリオン・バルボー(パリ・オペラ座バレエ団)、ホフェッシュ・シェクター、ドゥニ・ポダリデス、ミュリエル・ロバン、ピオ・マルマイ、フランソワ・シヴィル(『私の知らないわたしの素顔』『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』)、メディ・バキ、スエリア・ヤクーブ
公開日、上映劇場 2023年9月15日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開

 

“迷いや弱さをスーパーパワーに変える!”

踊る歓びを生きる歓びに昇華させた、

セドリック・クラピッシュ監督渾身作!

 

パリ・オペラ座バレエ団のダンサーが主役とはなんと贅沢な映画だろう。冒頭、主人公・エリーズが主役を務めるバレエ『ラ・バヤデール』のシーンから始まる。出番直前の張り詰めた空気の中、栄光への期待から一気に失意のどん底へと突き落とされるエリーズの声にならない慟哭が響いてくるようだ。15分間セリフなし。暗いバックステージの劇的展開から、美の極致を魅せるクライマックスのステージへと、尋常ならぬ緊迫感にまず惹き込まれる。エリーズを演じたマリオン・バルボーを始め、すべてパリ・オペラ座バレエ団による迫真のイントロ映像は、他にはない興奮と期待で魅了する。


dancerinParis-500-3.jpg少年の頃からあらゆるダンスに興味をもっていたというセドリック・クラピッシュ監督は、『ロシアン・ドールズ』(2005)でもサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場での撮影を敢行していて、パリ・オペラ座バレエ団との関係も深い。当時エトワールだったオーレリ・デュポンのドキュメンタリーを始めクラシックバレエとコンテンポラリーダンスの両方の公演も映像に収めてきている。監督にとって、ダンスについてのフィクションを撮ることが20年来の念願だったそうで、その際には「バレエができる俳優ではなく、演技ができるダンサーを主役に!」というこだわりがあった。だからこそ、挫折と苦悩と再起をかけるエリーズのエモーションに共鳴するかのようにダイナミックな躍動感で心に迫ってくるのだ。


dancerinParis-500-1.jpgパリ・オペラ座バレエ団でエトワールに次ぐプルミエール・ダンスーズに属していたエリーズは、『ラ・バヤデール』の主役というチャンスを得たものの、本番中のトラブルで足を怪我してしまう。心身共に傷付きダンサーとしての道も危ぶまれるエリーズに、二人の姉たちは「続けなさい、亡くなったママの望みよ!」と励ましてくれるが、弁護士の父は「だから法律の道へ進めと言ったんだ」とダンサーの道を選んだ娘に理解を示そうとしない。不安を抱えたまま、友人の誘いでブルゴーニュにあるレジデンスへアルバイトに行くことに……なんとそこには“踊りたい!”という欲求を大いに掻き立ててくれるある出会いが待ち受けていた。


dancerinParis-500-7.jpgそれは《ホフェッシュ・シェクター・カンパニー》というコンテンポラリーの舞踊団だった。主催・振付のシェクターを始めダンサーたちもすべて本人役を演じている。体の奥からエネルギーの胎動を感じさせるような独特の音楽に、情感がほとばしるダンスを捉えた映像は観る者を圧倒する。エリーズにとって初めて体感する衝動に足の痛みも忘れて体が共鳴していく。ダンサーたちとブルターニュの海岸で過ごすシーンやダンスについて語り合うシーンなど、クラピッシュ監督ならではの癒しと人との距離が縮まる演出が冴え渡っている。


dancerinParis-500-6.jpgさらに、弱気なエリーズに励ましの言葉を掛け続けるレジデンスの女主人・ジョジアーヌ(ミュリエル・ロバン)が母親のような優しさで温めてくれる。「あなたは今まで恵まれていた。才能があり、美しい世界にいた。これからは私たちを美しい世界に連れてって!」とエリーズの背中を押す。整体師のヤン(フランソワ・シヴィル)や友人カップル(スエリア・ヤクープ&ピオ・マルマイ)のコミカルなキャラも明るく軽快なテンポで和ませてくれる。


dancerinParis-500-5.jpgそして、父・アンリ(ドゥニ・ポダリデス)との関係性もまた本作に人間味のある膨らみをもたらしている。妻亡き後、3人の娘を育てて来た父親は弁舌に長けるも、素直に愛情表現ができるタイプではない。再起を賭けた公演を控えたエリーズから、「私に冷たいよね。“愛してる”って言って!」と迫られるも、「愛情がない訳ではない。理解できないだけだ」と戸惑いながら答えてしまう。そんな父親が、ステージ上で踊る歓びを全開にしたエリーズを見つめるシーンが最高にいい! 幼い頃よりバレエ教室に通って努力してきたエリーズの成長を想いながら心から愛おしく感じたのか、終演後の父がとったある行動に胸が熱くなった。


dancerinParis-500-4.jpgダンサーの挫折と苦悩と再生の物語を、ダンスシーンだけでなく、成長の過程や個性的なキャラクターの人間関係をも丁寧に描き出して、セドリック・クラピッシュ監督の中でも素直な感動に浸れる傑作だと思う。目にも耳にも心にも栄養をもたらすような映画だ。

 

(河田 真喜子)

公式サイト :  www.dancerinparis.com

配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル

後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、UniFrance/French Film Season in Japan 2023

© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

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