原題 | 헌트(原題)HUNT(英題) |
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制作年・国 | 2022年/韓国/韓国語・英語・日本語 |
上映時間 | 2時間05分 PG12 |
監督 | 脚本・監督:イ・ジョンジェ |
出演 | イ・ジョンジェ、チョン・ウソン、チョン・ヘジン、ホ・ソンテ、コ・ユンジョン、キム・ジョンス、チョン・マンシク |
公開日、上映劇場 | 2023年9月29日(金)~新宿バルト9、T・ジョイ梅田、シネマート心斎橋、MOVIX堺、T・ジョイ京都、kino cinema 神戸国際、MOVIXあまがさき、ほか全国ロードショー |
~次世代のために歴史をみつめ直すイ・ジョンジェ渾身の初監督作品~
イ・ジョンジェの初監督作品は、南北朝鮮の分断による1980年代の闘争の歴史を現代社会に重ね合わせたスパイアクション。主演は決まったものの監督がつかず、ついには脚本も自ら手掛けることとなった本作に俳優仲間がこぞって名乗りを挙げた。短いシーンにも驚くような人が出ていたりするので、その辺りもお見逃しなく!
1983年ワシントン。安全企画部(旧KCIA)海外チームのパク・ピョンホ(イ・ジョンジェ)と国内チームのキム・ジョンド(チョン・ウソン)は共に大統領を警護する役割を担っていた。一般市民の流血を招いた政権に不満の声は高まり、学生や市民と警察との衝突・検挙は日常茶飯事。その一方で対北朝鮮の作戦は失敗が続き、情報の漏洩が取り沙汰される。北のスパイ”トンニム”をあぶり出すべく、両チーム互いへの内偵が始まった。と同時に水面下では大統領の暗殺計画が進行していたのだった。
ここで韓国の軍事政権の歴史を振り返ってみたい。1961年にクーデターによって政権を握ったパク・チョンヒ大統領が銃弾に倒れたのが1979年。その様子は『KCIA(南山の部長たち)』(2021)に詳しく描かれている。その後、陸軍出身のチョン・ドファンがその椅子に座ると、今度は1983年のラングーン事件(ビルマ-現ミャンマーでの暗殺未遂事件)が起こる。また、前述の市民の流血とは1980年の光州事件と思われ、史実を踏まえての作劇であることがわかる。
とにかく展開が早く、目に見えていた事象がさまざまに変転する瞬間の驚きと興奮にアドレナリンは大放出!一方、その陰で翻弄されるしかない無辜の人々の存在も描かれる。パクの部下ジュギョン(チョン・ヘジン)に上司の娘ユジョン(コ・ユンジョン)。キムの妻や亡命しようとした家族の姿も忘れられない。細かい事情は瞬時に呑み込めないところもあるが、勘どころはしっかり押さえていて、武力、暴力では融和は望めないというメッセージが真っすぐに伝わってくる。突出した大悪党もいなければスパッと解決してくれる英雄もいないのだが、悪党を倒しても次の悪党が現れる顔のない物語を描いた上で、暴力の連鎖を止める必要性を切実に訴えている。
なぜ今80年代にスポットを当てたのだろう。イ・ジョンジェはインタビューで本作を”時代の悪行を止めようとする試み”だと答えている。「フェイクニュースも含め情報過多の世の中でイデオロギーが我々を扇動しようとしているのではないかと考えることがある」と現代社会になぞらえて警鐘を鳴らす。頭の中でにわかには繋がらなかったが、たしかに一般人から政治家に至るまで、主義主張の押し付け合いをする様子はリアルタイムで流れてくるし、昔より情報操作は簡単だ。それがミスリードだったとしても起こってしまったムーブメントは簡単に収拾できない。そう考えると現代の方がはるかに危険と言えそうだ。だからこそ歴史から学ぶ必要がある。ものごとを鵜吞みにせず事実確認をし、様々な方向から検証する姿勢が求められる。そして何より自分の頭で考えることが大事なのだと改めて気付かせてくれる。昨年末話題になった”新しい戦前”という言葉が頭をよぎった。
韓国映画には南北の摩擦を描いた作品が多いが、本作は緊張と緩和、強弱の付け方が絶妙で「シュリ」や「JSA」など韓国ノワールを初めて観たときの新鮮な衝撃が蘇った。脚本の面白さといい、イ・ジョンジェのマルチな才能にただただ脱帽。明るいシーンはほとんどないのに信頼や愛情が見て取れるし、硝煙が立ち込めるシーンが長く続いた後のラストは森閑として、名シーンとして語り継がれそうなほど余韻が残る。
(山口 順子)
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