原題 | Tell it like a woman |
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制作年・国 | 2022年/イタリア、インド、アメリカ、日本/英語、イタリア語、日本語、ヒンディー語 |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | タラジ・P・ヘンソン、キャサリン・ハードウィック、ルシア・プエンソ、呉 美保、マリア・ソーレ・トニャッツィ、リーナ・ヤーダヴ 、ルチア・ブルゲローニ&シルヴィア・カロッビオ |
出演 | ジェニファー・ハドソン、マーシャ・ゲイ・ハーデン、カーラ・デルヴィーニュ、エヴァ・ロンゴリア、杏、マルゲリータ・ブイ、ジャクリーン・フェルナンデス |
公開日、上映劇場 | 2023年9月1日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema 神戸国際、ほか 全国ロードショー |
~信念と意志をもった女性たちの生き方にふれる、1本の映画祭~
各国の女性監督による7つのアンソロジーは2015年に設立された映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づけるための非営利映画製作会社WDIT(We Do It Together)の制作によるもの。ドキュメンタリーありフィクションありで監督・キャストも豪華な顔ぶれだ。主題歌の「Applause」がアカデミー歌曲賞にノミネートされたことでも話題になった。
まず1本目から度肝を抜かれる。刑務所からリハビリ施設へ移送されるまでを描いた「ペプシとキム」のジェニファー・ハドソンが圧巻。PTSDによって心を閉ざし重度の精神疾患を抱えた心理描写がみごと。ドラマからドキュメンタリーへの転換も鮮やかで15分をもっとも効果的に使い切ったのでは。次もアメリカで「無限の思いやり」。コロナ渦の路上生活者へ医療支援を行う医師の物語だが、カーラ・デルヴィーニュ演じるホームレスの描写が想像をはるかに超えて、存在そのものが物語を感じさせる。
イタリアの「帰郷」にはテレビシリーズ「デスパレートな妻たち」で人気を博したエヴァ・ロンゴリアが出演。同じくイタリアの獣医師の物語「声なきサイン」は日常に潜むサスペンスを描く。これも実話を基に作られた。さらにアニメーションも最後に登場する。
日本からは杏主演の「私の一週間」。インパクトのある作品群のなかで穏やかな作風が逆に異彩を放っている。一見ほっこりする話に見えるが、日常にこぼれ落ちてしまいそうなものを丁寧にすくい取る呉美保監督だけあって、ほっこりする”だけ”の話ではない。この主人公もまたタイトロープを渡る人である。杏が自転車を漕ぎながら風で涙を吹き飛ばすシーンが印象に残る。心の揺れを一人きりのシーンに込めた意味は深く、引き受けるしかない現実を杏がよく演じている。
一方、インドの「シェアライド」はまったくちがったアプローチで色彩美の世界の幕が開く。登場人物たちのあでやかな衣装や躍動する肉体美がまるでショーを観ているよう。ほとんどストーリー性を持たせずに描いたものは人種や性別を超えた融合と捉えられる。この映画は女性の声を集めたコンセプトだが、本作のラストシーンからは人間賛歌が聴こえてくるよう。『PARCHED』(2015)が国際的に高い評価を得たリーナ・ヤーダヴ監督作品の劇場公開はおそらくこれが初めて。
また、ケアを受けた人がケアする側に回っていく循環もあった。どの作品にも共通して感じるのは時にひるんだり悩んだりしながらもトライ&エラーを積み重ねていること。彼女たちは弱さを見せない訳じゃない。いや弱さを見せまいとする部分も確かにある。カーラと杏が演じたキャラクターは特にそう見えた。自助には限界がある。だからこそ公助が保障され共助が実現できる世の中になってほしいと思う。
制作に6年が費やされたそうだが、実際にはそれ以上の時間の積み重ねがあっただろう。作品に描かれた人も本作に関わった人も各々が地道な活動を積み上げてきたからこそ実現した集大成にちがいない。ラストを飾るイタリア発のアニメーションは音声も字幕もないが確かに伝わるものがあって、アニメーション本来の力を感じると共に全体を締めくくる閉幕式のよう。一本でまるで映画祭のような豊かさだった。
(山口 順子)
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製作・企画・プロデュース:WOWOW
配給:ショウゲート
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