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『ランガスタラム』

 
       

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作品データ
原題 原題:Rangasthalam 
制作年・国 2018年 インド
上映時間 2時間54分
監督 監督・脚本:スクマール 撮影:R・ラトナヴェール 音楽:デーヴィ・シュリー・プラサード
出演 ラーム・チャラン、サマンタ、プラカーシュ・ラージ、ジャガパティ・バーブ、アーディ・ピニシェッティ、アナスーヤ・バラドワージ、プージャー・ヘグデ
公開日、上映劇場 2023年7月14日(金)~新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、イオンシネマ茨木、MOVIX京都、kino cinema神戸国際、MOVIXあまがさき、塚口サンサン劇場 ほか全国公開!

 

~『RRR』のラーム・チャランによる“社会派”マサラ映画~

 

2022年10月に封切られるや空前のロングラン上映が今なお継続中の『RRR』のラーム・チャラン最新作がやってきた。本人も「役者人生の転換点」と位置づける記念碑的作品だ。前作で冷徹な警察幹部を演じたが、今回は真逆のような役どころ。そのギャップに先制パンチを受け、その後は遊園地のアトラクションのようなスピード感とアップダウンであれよあれよという間に3時間が経っていた。


Rangasthalam-500-9.jpg1980年代のインド南東部。チッティ(ラーム・チャラン)は難聴の青年だ。けんかっ早さが玉にキズだが、仕事仲間のランガンマ(アナスーヤ・バラドワージ)は何かと気にかけてくれるし、手足のように動いてくれる部下もいる。しかし、一方でランガスタラム村はプレジデント(ジャガパティ・バーブ)と呼ばれる専制君主に牛耳られ、搾取されている現実があった。反旗を翻す者には容赦のない報復が待ち受けるという。そんな状況を看過できなくなったチッティの兄クマール(アーディ・ピニシエッティ)が立ち上がり、州会議員ムールティ(プラカーシュ・ラージ)の力添えによって出馬を決意するのだが・・・。


Rangasthalam-500-5.jpg前半で陽気なチッティの日常とラーマラクシュミ(サマンタ)との出会いを軽やかに謳いあげたかと思えば、いつの間にかサスペンスの要素が濃くなってゆく。ついにはカーストや格差などインド社会の様々な問題が浮き彫りになり、一瞬たりとも観る者の注意をそらさない。


スクマール監督の日本公開作品はこれが初めてだがこんな作家がいたのかと驚いた。入り口は歌あり踊りありのマサラ映画だが、社会ドラマとしての着地を果たしているのだ。2014年に制作会社を設立してからが本領発揮となったようで骨太な作品を数多く発表しており、描きたかったのは社会だとわかる。


Rangasthalam-500-11.jpgしかし、同時にマサラ映画としての魅力も失っていない。圧巻は民衆の自虐の歌だ。ランガスタラムは舞台という意味を持ち、村人は役者になぞらえられている。圧政に苦しむ人々が”自分たちは操り人形”と力いっぱい歌って踊る、それは一見開き直りのようでもあり、怒りや悔しさ、やるせなさを逆手にとって生き抜いてやるという魂の叫びにも聞こえる。この歌詞は『RRR』の「ナートゥナートゥ」を手掛けたチャンドラ・ボースによるもの。歌がストーリー以上に雄弁に物語るシーンは他にもある。故人を偲ぶ場面でハンガーに至るまで道具の一つひとつが歌詞になっている。呪術や土着信仰の残るインド農村部の生活、風俗、情緒がこんなところにも表れているようで興味深い。


Rangasthalam-500-3.jpgチッティの人相はある事件の前と後でまるで別人のように変わってしまう。ラーム・チャランはそんな内面の葛藤と変遷をみごとに演じ切った。終盤の展開はまさに鳥肌もの。これまでのマサラ映画であれば、ラストシーンにこそ賑やかなダンスが繰り広げられただろう。しかし本作はそうではない。チッティの静かな闘志に打たれると共に立ち上る虚無感に絶句する。寄り添うラーマラクシュミの表情もまた忘れがたい。


Rangasthalam-500-10.jpgインドとは宗教も歩んできた歴史も異なるが、家父長制など日本と似ている部分は多い。だからこそ物語がより深く胸に迫る。それは同時に痛みを伴うが、そんな私たちの心にそっと明かりを灯すのがランガンマだ。影となり日向となりチッティを支える役割で物語のなかに常に存在していたのだが、彼女の存在こそが作品のなかでもインド社会のなかでも一筋の希望と言えるだろう。とにかく見どころ満載で大満足の一本。

 

(山口 順子)

公式サイト: https://spaceboxjapan.jp/rangasthalam

公式 Twitter:@RANGASTHALAM_jp

配給:SPACEBOX

ⒸMythri Movie Makers

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