原題 | LEONORA ADDIO |
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制作年・国 | 2022年 イタリア |
上映時間 | 1時間30分 |
監督 | パオロ・タヴィアーニ |
出演 | ファブリツィオ・フェッラカーネ、マッテオ・ピッティルーティ、ロベルト・エルリツカ他 |
公開日、上映劇場 | 2023年6月23日(金)~シネリーブル梅田、7月7日(金)~アップリンク京都、シネリーブル神戸 ほか全国順次公開 |
映画を観る喜びとはまさにこれ!
名作家へのリスペクトをこめた、遺灰をめぐる物語
イタリアの名匠、タヴィアーニ兄弟の作品では『カオス・シチリア物語』(1984年)が最も好きだ。哀愁と乾いたユーモア、寓話的なエッセンスが絶妙に融合して、独特のタッチを生み出した。兄のヴィットリオ・タヴィアーニが2018年に死去し、91歳になった弟のパオロが単独で脚本・監督を務めた本作は、変わらぬ持ち味に加え、生と死を見つめるまなざしの深さが印象的で、『カオス・シチリア物語』の後日譚ともいえるお話でしめくくるという構成。大胆かつ繊細とはこういうことなのだ。
映画は、1934年、『カオス・シチリア物語』の原作者であるルイジ・ピランデッロがノーベル文学賞を授与される記録映像で始まる。そこにピランデッロの心の声が重なる。「かつてない孤独と悲しみを感じた」と。そして、美しい流線形のランプが現れる。薬瓶のようなものも加わり、白くてだだっ広い部屋が映される。ピランデッロの死を描写しているのだが、このシーンのモノクロ映像には惚れ惚れしてしまう。ピランデッロは自分の遺灰を故郷のシチリアに運んでほしいという遺書を残すが、時の権力者・ムッソリーニはローマにとどめて置くよう指示。時が流れ、やっと遺言どおりにシチリアへの移送が決まるが、それはとんでもないハプニングに満ちた旅となる…。
一つ一つのエピソードが実に面白い。遺灰を飛行機で運ぼうとすると、迷信深い人々から拒否されたり、列車の中で遺灰を入れた木箱が行方不明になったり。使命感の強いシチリアの特使(ファブリツィオ・フェッラカーネ)の右往左往にほんまに同情してしまう。この道程がモノクロで、ピランデッロを火葬にしたシーンの炎と一人の男がシチリアの海に向かってある重要な行動をするシーン、そしてエピローグの短編『釘』が鮮やかなカラー映像となっている。
短編『釘』はピランデッロの遺作となった作品だが、監督はこれに『カオス・シチリア物語』に関係する脚色を行った。シチリアから父とともにアメリカに移住した息子を主人公としたのだ。『カオス・シチリア物語』のそのシーンはもちろんのこと、ロッセリーニをはじめとするイタリアネオレアリズモの名作が多く引用され、イタリア戦後史の一端にもふれることができる。
また、タヴィアーニ兄弟の作品ではおなじみのニコラ・ピオヴァーニが本作でも音楽を担当。劇場での喝采(ピランデッロに対して、また映画という芸術に対して、あるいは世を去った兄のヴィットリオに対してかもしれない)というエンディングまで、映像の力に共鳴する細密な音の空間を創り出した。最後まで観たら、またもういっぺん頭から確かめるように観たくなる、後味の濃い作品だと思う。
(宮田 彩未)
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