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『怪物』

 
       

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作品データ
制作年・国 2023年 日本 
上映時間 2時間6分
監督 監督:是枝裕和 脚本:坂元裕二 音楽:坂本龍一
出演 安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子他
公開日、上映劇場 2023年6月2日(金)~TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、あべのアポロシネマ、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸、OSシネマズ神戸ハーバーランド、109シネマズHAT神戸ほか全国ロードショー

 

この現代社会で“怪物”とは何なのか?

観る者に鋭く迫る名匠の問題作

 

是枝裕和監督は、主に自身で脚本を書き、撮影現場でその脚本にちょこちょこ修正を加える“差し込み”の方法を取ることで知られているが、今回は違った。映画『花束みたいな恋をした』や数々のテレビドラマ(古いところでは『東京ラブストーリー』)で手腕を発揮してきた人気脚本家・坂元裕二に任せ、現場での変更もほとんど無しだったという。お互いのリスペクトが生んだこの新作は、強いうねりを持った重層的な物語で、強い印象を残してくれる。


kaibutsu-500-2.jpg『万引き家族』で世界に実力を示した安藤サクラ。彼女が本作で演じたのは、小学生の息子を持つシングルマザー麦野早織だ。クリーニング店で働きながら、明るさと愛情を息子の湊(黒川想矢)に注ぐ早織だったが、近ごろ湊の様子が変なことに気づく。スニーカーの片方を失くしたり、奇妙な質問をしてきたり…。ある日、早織は帰りの遅い湊を探しに行き、やっと見つけて車で帰る途中、いきなり湊は車のドアを開けて飛び降りる。軽傷だったが、担任の保利先生(永山瑛太)からひどい言葉と暴行を受けたと湊が涙ながらに訴えるので、早織はびっくり。事情を聞きに学校へ行った早織は、衝撃的な場面に遭遇する。


自分がこうだと思っていることを、他人も「そのとおり!」と思うとは限らない。それどころか、人それぞれの立場に立った真実がある。すると、事実とは何だったのか。神の目で見た事実があったとしても、人それぞれの真実が錯綜し、それぞれの真実が主張されることにより、事実を見極めることなどできなくなってしまう。これを“怪物が立ちはだかる”と、私は理解した。


kaibutsu-500-1.jpg早織は愛情たっぷりの優しい母親である。それなのに、学校側から見れば、息子を守るためにしつこいクレームを繰り返すモンスターになるのだろう。若くて指導にやる気満々で生徒に優しい保利先生は、早織のほうから見れば、わが子に陰湿ないじめをする気色悪い教師だ。内気でいじめられているはずの湊は、先生を陥れ、他の生徒を陰でいじめる大いに問題ありの少年になる。孫を亡くしたばかりで傷心の校長先生(田中裕子)は、保身に精一杯で、保護者の訴えが聞こえないかのようにふるまう得体のしれない存在と映る。


いじめの疑惑で始まった映画は、母親、学校、若い教師、少年たちそれぞれのストーリーを絡ませ、当初とは違う顔を並べていく。吸引力の強い作風である。田中裕子の変調ともいえる演技も見どころの一つ。音楽は、つい最近この世を去った坂本龍一が担当した。音楽を依頼された時、「すべてのスコアを引き受ける体力がない」と言ったというのは胸に突き刺さるが、書下ろし2曲を含む美しいピアノ楽曲を提供。映像と共鳴するかのような繊細な音空間を味わってほしい。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/

©2023「怪物」製作委員会

 

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