制作年・国 | 2023年 日本 |
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上映時間 | 2時間 PG12 |
監督 | 監督・脚本:藤井道⼈(36)(『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』『最後まで行く』) ⾳楽:岩代太郎 企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸(72)(『新聞記者』『宮本から君へ』『ヤクザと家族 The Family』『MOTHER マザー』『茜色に焼かれる』『空白』他) |
出演 | 横浜流星、⿊⽊華、⼀ノ瀬ワタル、奥平⼤兼、作間⿓⽃、淵上泰史、⼾⽥昌宏、⽮島健⼀/杉本哲太、⻄⽥尚美、⽊野花、中村獅童、古⽥新太 |
公開日、上映劇場 | 2023年4月21日(金)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS等)、MOVIX(京都、八尾、あまがさき等)他全国ロードショー |
“村”がひとつの生き物のように、人間の欲望も全てを飲み込んでいく……
〈亡き河村光庸プロデューサーの意志を受け継ぐ者たちへ〉
昨年6月に亡くなった河村光庸(かわむらみつのぶ)プロデューサー(72)は、権力の闇や理不尽な社会に鋭く迫った『新聞記者』(‘19)で若き藤井道人監督(36)を社会派サスペンス映画の旗手として一躍有名にした。そして、続く『ヤクザと家族 The Family』('21)でも藤井監督を起用し、今回の『ヴィレッジ』では「今の日本人の間ではびこる同調圧力や事なかれ主義に一石を投じたい」というメッセージを彼に託した。その想いは、かつてないふり幅の演技で観る者を圧倒する横浜流星と共に藤井監督が具現化。まさに河村プロデューサーと藤井監督の想いの詰まった”引き継がれるものの映画”だといえよう。
社会の縮図である“村”を舞台に、親が犯した罪に引きずられ、いわれのない抑圧の下で這いつくばるように生きていた若者が、ひとつの希望を見出し人生が好転するかに見えた矢先……最愛の者を守るため“闇落ち”する横浜流星を見てほしい。ラストの彼の表情が意味するものを読み取ってほしい。横浜流星だけでなく藤井監督自身にも共通する「迷いや怖れ」を反映しながら、選択肢のない逃れられない宿命に翻弄される主人公「優」を創り上げていったという。
美しい茅葺き屋根の家が建ち並ぶ山あいの集落、霞門村(かもんむら)。その閑静な佇まいの村には似つかわしくない背後にそびえたつ白く巨大なゴミ処理場。まるで村を支配するかのような異様さだ。犯罪者の息子として蔑まれ、ギャンブル狂の母親の借金で身動きが取れず、生きている実感さえ掴めない優(横浜流星)だったが、7年ぶりに村へ帰って来た幼なじみの美咲(黒木華)によって徐々に人間性を取り戻していく。ゴミ処理場の利権を牛耳る村長の大橋修作(古田新太)が、優を広報係とする美咲の企画を採用したせいで、優は村長の息子・透(一ノ瀬ワタル)の激しい妬みを買うことになる。事態は村社会の歪みを拡大させ、闇を深め、憎しみを増幅させ、村自体が人々を飲み込むように霧でおおわれていく……。
本作では、河村プロデューサー発案により、薪能(たきぎのう)が効果的に使われている。村長の弟・光吉(中村獅童)は村を出て警官になっていたが、村の鎮守の社に奉納する伝統の能を指導するために時々村にやって来ては、優や美咲を優しく見守っていた。「すべては束の間の儚い夢」という『邯鄲(かんたん)』と、地上に降り立った天女伝説の『羽衣』が演じられ、夢か現(うつつ)か幻か、霞たなびく閑静な村が人間の罪深い業(ごう)によって悲鳴をあげているようにさえ見えてくるのだ。そして、「きっ!」と正面を見据える村長の病床の母親・ふみ(木野花)がまた、能面のような顔で“村”そのものを体現して、実に不気味。演じる木野花の凄みときたら、ホラーばりの恐怖で圧倒する。
多様化していく社会において、人も共同体も政治も不変ではありえない。先の地方選挙でも候補者不在にて1人の人間が連続して自治体の長を務めるケースが目立っていた。選挙で時代に即した主義主張を訴え論戦を交わさなければ、偏見や差別を正す機会を失い、真の民主主義は叶えられなくなるだろう。この映画を観て、真剣にそう思った。河村プロデューサーの想いが、藤井監督を始めとする若き映画人たちに引き継がれることを心から願うばかりだ。
(河田 真喜子)
公式サイト: https://village-movie.jp/
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配給:KADOKAWA/スターサンズ
©2023「ヴィレッジ」製作委員会