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『せかいのおきく』

 
       

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作品データ
制作年・国 2023年 日本 
上映時間 1時間29分
監督 阪本順治
出演 黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司 他
公開日、上映劇場 2023年4月28日(金)~シネ・リーブル梅田、TOHOシネマズなんば、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー

 

どこかとぼけたおかしみも加えつつ、美しいモノクロ映像で語る純愛物語

 

阪本順治監督の最新作は、なんと、いま引っ張りだこの黒木華をヒロイン役に迎えた時代劇。昔ながらの正統派時代劇を予想していたら、かなり異色だと感じるかもしれない。でも、観た直後よりも時間がたってから、じわじわと沁みてくる。ふと、あれこれのシーンを思い出して、心に沁みてきたものを確かめたくなる。そんな、不思議な作品だ。


sekainookiku-500-1.jpgおきく(黒木華)は22歳。武家の出なのに、ワケあって父親(佐藤浩市)と二人、貧乏長屋で暮らしている。にこやかに周囲の住民たちと交わっているが、とても気になる男と出会った。便所の糞尿を買い集め、肥料として農家に売る“下肥買い”の仕事を始めた中次(寛一郎)だ。そんなある日、おきくは喉を切られるという惨事にあい、声を失ってしまう。


sekainookiku-500-3.jpgおきゃんで勝ち気なおきくは、中次に下肥買いの仕事を教えた矢亮(池松壮亮)には言いたい放題、ふたりのやりとりにはつい笑ってしまう。だが、声を失ってからのおきくは、涙ぐましいほど純である。恋心を中次に伝えたい、その思いがどんどん強くなっていく。手話のない時代に、自分の気持ちを精いっぱい表そうとするおきくの姿!黒木華の熱演が光る。また、風貌が似てきたなあと感じさせる佐藤浩市と寛一郎の親子共演、独特の飄々とした味わいを醸し出す池松壮亮にも注目。


sekainookiku-500-4.jpg最初、タイトルを見た時、「せかいのきおく」と読み間違えそうになった。ひょっとして、これは阪本順治監督の思うつぼだったのだろうか。鎖国下の江戸時代、一般の人々に「せかい」という認識があったかなかったか、たぶんなかったのだろうと思われるせりふが出てくる。だが、「せかい」というものがあり、それは何かと追い求めれば、そのきおくは蓄積される。そういうことをヒロインの名にひっかけて付けた題名なのかなと、深読みをしてしまったのだが。


sekainookiku-500-2.jpg日本映画製作チームと世界の自然科学研究者とが協力して、さまざまな時代の「良い日」に生きる人々を、映画という手段で伝えていこうというYOIHI PROJECTを、美術監督として活躍する原田満生が立ち上げ、本作はその第一弾作品。まさに、循環型社会を描いているのだが、阪本監督は「啓蒙的な作品にはしたくなかった」と語っている。そのことば通りで、教条的なにおいは微塵もない。禅問答のようであったり、おかしみを感じさせるせりふがあったり…。社会の底辺でたくましく生きる人々を、穏やかな目で見つめているような優しさにあふれている。美しいモノクロ映像に惚れ惚れしつつ、ほんのわずかスポット的にはさみ込まれる色彩にはっとさせられた。

 

(宮田 彩未)

公式サイト: http://sekainookiku.jp/

配給:配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア

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