原題 | LES PASSAGERS DE LA NUIT |
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制作年・国 | 2022年 フランス |
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | ミカエル・アース |
出演 | シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、メーガン・ノータム、ノエ・アビタ、エマニュエル・ベアール他 |
公開日、上映劇場 | 2023年4月21日(金)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
新しい自分を獲得しようとするヒロイン像と、
ヌーベルヴァーグへのオマージュに惹かれる
シャルロット・ゲンズブールも50代になったのだなあと思いつつ、彼女がずっとまとい続けている“パリのエスプリ”を改めて確かめる。いわゆる正統派美女というのでなく、個性派美女というのだろうか、ま、そういう分類はどうでもいいのだけれど、彼女が画面に現れたとたん、「あ、パリ!」という感じを抱く。そういうシャルロットが、本作では惑いの季節にさしかかった女性を演じていて、広く共感を呼ぶだろう。
高校生になる息子マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)とその姉ジュディット(メーガン・ノータム)というふたりの子どもを持つエリザベート(シャルロット・ゲンズブール)は悲嘆に暮れていた。夫が家を出て行って、愛人と共に暮らし始めたのだ。これまで専業主婦で仕事の経験がほとんどないエリザベートだが、すぐにでも仕事を探さねばならなくなった。幸運にもラジオ局の電話受付に採用された彼女の生活圏に、路上生活をしているタルラ(ノエ・アビタ)という少女がからんでくる。
映画の冒頭で、保守政権を倒したミッテランの勝利に沸く1981年5月10日のパリの様子が映し出される。フランス国民にとってこれは記念すべき大きな出来事だったようだが、物語との関連性がどうもわからない。すぐに時代が1984年に飛んで、エリザベートのお話が語られてゆき、その後一度もミッテランや革新政権に触れることはないのだ。音楽や映画、ファッションなど1980年代への監督の憧れが本作には濃厚に表現されているので、単に80年代の幕開けを表すエポック・メイキング的な出来事として登場させたのかもしれない。
ラジオ局だけでなく、その後、図書館の受付という仕事もするようになり、ダブルワークで頑張るエリザベートは、メソメソ泣いていた頃と比べ、俄然輝きだし、彼女に好感を持つ男性まで出てくる。見ず知らずのタルラを心配するほど他人に対して思いやりが深く、子どもたちからも愛されているエリザベートに、強さが加わったなと感じる。でも、嫌みやずるさは全くなく、あくまでええ人なのだ。一方、エマニュエル・ベアール演じるラジオのパーソナリティは、気分にムラがあって懐が広いかと思えば激怒したりして、まあこっちのほうが日常的によくあるタイプ。ふたりの女性像を比べてみるのも面白い。
フランス映画でミューズ的な存在感を放ってきたシャルロット・ゲンズブールとエマニュエル・ベアールの競演だなんて、フランス映画ファンには嬉しい。もう一つ、フランス・ヌーベルヴァーグの引用も興味深い。『満月の夜』(エリック・ロメール監督/1984年)と『北の橋』(ジャック・リヴェット監督/1981年)がちらりと出てきて、両方の作品に出演し、25歳の若さで亡くなったパスカル・オジェについて言及もされている。
原題の意味は「夜の乗客」。エリザベートが勤めたラジオ局の深夜番組のタイトルだ。私も青春時代にはよくラジオの深夜放送を聴いていた。リスナーがパーソナリティに向けて質問したり悩みを打ち明けたり…。そういう時代へのノスタルジーを散りばめながら、温かな目で女性の自立と家族の絆を描いている。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://bitters.co.jp/am4paris/#modal
配給:ビターズ・エンド
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