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『The Son /息子』

 
       

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作品データ
原題 The Son
制作年・国 2022年 イギリス・フランス合作
上映時間 2時間3分
監督 監督・脚本・原作戯曲・製作:フロリアン・ゼレール
出演 出演:ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス
公開日、上映劇場 2023年3月17日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ二条 ほか全国ロードショー

 

~父と息子の縮まらない心の距離~

 

父の抱える無力感、悲しみを前に、答えのない問いをつきつけられたような重い余韻がいつまでも残り続ける。


弁護士として活躍中のピーターは、再婚した妻ベスとの間に子どもも生まれ、充実した生活を送っていた。ある日、前妻のケイトがいきなり家を訪れ、息子のニコラスが高校にも行っておらず、様子が変だと相談される。ニコラスに会いに行くと、父と一緒にいたいと懇願される。ピーターはベスを説き伏せ、ニコラスを転校させて、一緒に暮らし始める。明るい表情に戻ったニコラスを見て、安心したのも束の間。新しい高校に登校していないことを知ったピーターは、思わずニコラスに怒りをぶつけてしまう。ニコラスには自傷癖があることもわかり、事態は混迷を極めていく。


TheSon-500-2.jpgニコラスが抱えているのは心の病気であり、ニコラス自身もどうしたらいいのかわからず、追い詰められて、助けを求めるばかり。ピーターは、父として奮起するものの、思うような結果は出ない。すれ違うばかりの二人。時折、挿入される、ドラム式洗濯機の中で洗濯物が回っている映像が、不穏な空気を醸し出し、心をざわつかせる。


映画の途中に、ピーターが海で幼いニコラスに泳ぎを教える回想シーンが何度も挟み込まれる。あの頃、確かに父と息子はつながりあっていて、父は息子を教え導くことができた。輝く笑顔、幸せいっぱいな姿がまぶしく、逆に、十数年後の現在の状況が痛々しい。


TheSon-500-1.jpg深刻な心の病を前に、親でさえも、なすすべがない局面は確かにある。ピーターは、そのことを受け入れられず、親だからこそ息子を理解できるし、助けられると思い込み、状況が見えなくなる。


監督は、この映画を通じて、心の病いについて、もっとオープンに語り合えるような機会にしてほしいと語っている。責めるのではなく、ピーターのありようについて深く考えたい。

 

(伊藤 久美子)

公式サイト:https://www.theson.jp/

配給:キノフィルムズ

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