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『ザ・ホエール』

 
       

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作品データ
原題 THE WHALE  
制作年・国 2022年 アメリカ
上映時間 1時間57分
監督 監督・製作:ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワ』『ザ・ファイター』『レスラー』)
出演 ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン他
公開日、上映劇場 2023年4月7日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都、TOHOシネマズ二条、kino cinéma神戸国際 ほか全国ロードショー

 

ひとりの男が人生の最後に求めたもの、その一途さに打たれる

 

主人公の部屋だけで物語が進行してゆくスタイルで、「まるで舞台劇のようだな」と思っていたら、それもそのはず、サミュエル・D・ハンターという人が書いた戯曲がもとになっている。監督のダーレン・アロノフスキーは、題名にひかれてふらりとこの舞台劇を観に行き、すぐに映画化したいと思ったそうだ。そして、その思いは実現し、ご存じのように本年アカデミー賞主演男優賞に輝いたのだが、主演がブレンダン・フレイザーに決まるまで、なんと10年もの年月をかけたという。


whole-500-1.jpg薄暗い部屋に272キログラムの巨体を落ち着けているチャーリー(ブレンダン・フレイザー)。彼の仕事は文章についてオンラインで講義をすることで、その部屋から一歩も出て行かない。歩行器なしでは歩けないのだ。頻繁に訪れるのは、ずけずけとものを言うが、彼のことを心底心配している看護師のリズ(ホン・チャウ)だ。チャーリーはリズの兄であるアランと恋に落ち、そしてアランが亡くなったショックで過食を繰り返したという事情がわかってくる。無骨な新米の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)の訪問がチャーリーの生活に小さな風を巻き起こすが、チャーリーは自分の余命の少なさに捕らわれ、遠い昔に背を向けて音信不通になってしまった娘エリー(セイディー・シンク)と会う…。


人生がうまくいかず、孤独で、家族との関係を修復したいと願う男、とくると、ダーレン・アロノフスキーが監督し、ミッキー・ロークが主演した『レスラー』(2008年)を思い出す。あれも痛ましくて、心に突き刺さるような悲しみがあって、それでいながら崇高な美しさを漂わせていた。本作のチャーリーが口にする数々の言葉、そのなかで何度も繰り返してリズに逆ギレされる「Sorry」、それなのにふと飛び出すウィット、猛反発の娘の暴言に耐えながら差し出される愛情のきらめき…。強くて若くて明るいものだけが美しいわけではないと改めて感じる。タイトルの『ザ・ホエール』はメルヴィルの小説『白鯨』がからんでくるのだが、主人公の体型をもほのめかしているのだろう。


whole-500-2.jpgブレンダン・フレイザーは『ハムナプトラ』シリーズで人気を集めた後、心身の調子を崩し、しばらくハリウッドの第一線から遠ざかっていて、これがスマッシュ・ヒットの復帰作。特殊メイクで大太りさせられた彼の演技をじっくりと見つめてほしい。リズ役のホン・チャウもイイ!彼女は『ザ・メニュー』(マーク・マイロッド監督/2022年)で不気味な役柄を演じ、それも印象的だったが、本作によりアカデミー賞助演女優賞にノミネート。もっとフットライトを浴びてもいいアジア出身の俳優のひとりである。


最後のほうで、薄暗い部屋にほんの一瞬差し込む光。娘のエリーの顔を照らすその光はまるで啓示のようだ。そしてその後にやって来るエンディングにはっとさせられ、私たちはチャーリーというこの男の人生のひだを、一つひとつ指で撫でるように確かめたくなる。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://whale-movie.jp/

配給:キノフィルムズ

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