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『雑魚どもよ、大志を抱け!』

 
       

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作品データ
制作年・国 2023年 日本
上映時間 2時間25分
原作 足立紳『弱虫日記』(講談社文庫)
監督 監督:足立紳(『喜劇 愛妻物語』『14の夜』)、脚本:松本稔/足立紳(『百円の恋』『アンダードッグ 前編・後編』)、音楽:海田庄吾(『百円の恋』『喜劇 愛妻物語』)、主題歌:インナージャーニー「少年」(鶴見river records)
出演 池川侑希弥 (Boys be/関西ジャニーズJr.) 田代輝 白石葵一 松藤史恩 岩田奏 蒼井旬 坂元愛登 臼田あさ美 浜野謙太 新津ちせ 河井青葉 /永瀬正敏
公開日、上映劇場 2023年3月24日(金)~新宿武蔵野館、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開

 

子ども時代へタイムスリップ!

飛騨で生まれた古くて新しいスタンドバイミー

 

バブル前夜の1988年、いなか町で自転車にまたがって町中を疾走する少年たちが大人の階段を登る直前の一瞬のきらめきをみごとに映しとった最高傑作が誕生した!


瞬(池川侑希弥)は5年生最後の日、Cで埋め尽くされた通知表を前に6年生から塾に通うよう母親に詰め寄られている。たまらず自室に逃げ込むと窓から合図の音がする。親友の隆造(田代輝)だ。そぉっと靴を持ち出し二階の窓から脱出すると二人は“トカゲ”(白石葵一)の家へ。学校をサボって寝ているトカゲの横では新興宗教にハマっている母親が熱心に祈祷している。次に三人が向かうのは母子寮。そこには秀才の正太郎(松藤史恩)が、やはり学校をサボってテレビゲームに興じていた。4人が向かう駄菓子屋にはへんくつな店主の老婆。そして町の外れには地元の子どもたちが恐れる地獄トンネルがある。線路伝いに進むとぽっかり口を開けた空洞の向こうは暗く沈み、入り口には誰が書いたのか”地獄行き”と朱書きされた看板。その向こうには何があるのか?敵対するグループや映画少年との交流など、彼らの狭くもあり広くもある宇宙がさまざまな方向へと広がり始める!


zakodomoyo-500-1.jpg「喜劇 愛妻物語」の足立紳が新人時代から温めていた20年越しの企画がようやく日の目を見た。今は亡き師匠・相米慎二監督にシナリオを褒められた思い出の作品でもあり、映画監督、脚本家、小説家として活躍する足立紳の原点とも言える。舞台もよくぞこんな場所があったものだというロケーション。足立監督の生まれ育った鳥取県の町にも似ているというが、私が育った大阪の町にも似て、いかにもどこかにありそうな町なのだ。令和世代はこの作品を観て何を思うだろう、聞いてみたい気がした。スマホのない生活はもとより正太郎の姉の部屋に忍び込むシーンや駄菓子屋の店主が暴言を吐くシーンなど。現代なら最初からないものとされるかデフォルメされそうな描写だ。しかし、それをごく自然に描くと同時に返り討ちに遭ったり、避けようのない現実と対峙する様子が描かれる。


zakodomoyo-500-2.jpg最後に全力疾走したのはいつだっただろう。カラカラに乾いた喉、道端に倒れ込んで夢中で飲んだ水の味。自転車を乗り回し悪さをして怒られて、子どもが子どもらしい時代の物語と言いたくなるが、ここに登場するのはただ無邪気な子どもたちではなく、それぞれに問題を抱えている。いや、世の中にただ無邪気な子どもなど一人もいないということを思い出させてもくれた。この映画、派手さはないけど大当たり!時代設定を現代に変えたり回顧録にしたりせず、素の物語をそのままに差し出しているところが潔い。大人があくまで脇に徹してほとんど介入してこないところも痛快。何より少年たちの思春期特有の心のざわめきのようなものがそれぞれのキャラクターから滲み出ている。


いつしか大人目線でなく、教室の中で彼らを眺めている同級生目線で固唾をのんで成り行きを見守っていた。役者が作品のなかで生きるという表現を見聞きすることがあるが、観ているこちら側もそんな感じなのだ。これは相米作品に通じる感覚ではないだろうか。かつて少年だった訳でも同じ経験がある訳でもないが小学生気分を味わえて最高に楽しかった。瞬と隆造を筆頭に雑魚どもはみんな粒ぞろい。瞬の両親(浜野謙太、臼田あさ美)も音響もすべてのバランスが心地良く、最後に主題歌「少年」がストーリーを優しく包み込み、いつまでも観ていたい気分になった。

 

(山口 順子)

公式サイト:https://zakodomoyo-movie.jp/
配給:東映ビデオ
制作協力:岐阜県飛騨市
©2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

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