原題 | Lady Day at Emerson's Bar & Grill |
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制作年・国 | 2016年 アメリカ |
上映時間 | 1時間30分 |
監督 | 監督:ロニー・プライス 脚本:ラニー・ロバートソン |
出演 | オードラ・マクドナルド 他 |
公開日、上映劇場 | 2023年3月10日(金)~なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema神戸国際 ほか全国順次ロードショー |
アメリカで大喝采を浴びた渾身のステージを、
映画館のスクリーンで
黒人への差別に対し、『奇妙な果実』という歌で異を唱えたビリー・ホリデイ。社会的な差別だけでなく、アルコールやドラッグへの依存などもあって、その人生は悲しみや苦しみの色が濃い壮絶なものというイメージを持つ人も多いだろう。もちろん、そのとおりだったといえるだろうが、そういうものを超越したかのように発せられるあのまろやかな歌声はいったいどこから来るのか。私はいつも聞き惚れてきた。時には力強さも感じられるけれど、パワフルなシャウト系じゃない。けだるさをまとったような甘さもあったりする。そして、いつもビリー・ホリデイそのもの、唯一無二なのだ。
ニューヨークのブロードウェイの舞台を、気軽に映画館で楽しんでほしいという「松竹ブロードウェイシネマ」から、今回も見どころたっぷりの作品が登場。ニューオーリンズのカフェ・ブラジルでのステージ『Lady Day at EMERSON’S BAR & GRILL』を収録したもので、アメリカのエンタメ業界で超有名なオードラ・マクドナルドがビリー・ホリデイに扮している。彼女は6度のトニー賞をはじめ、エミー賞、グラミー賞ほか、オバマ元大統領から国民芸術勲章を受勲するなど、プロフィールを覆いつくすような数々の受賞歴がある本格実力派だ。
舞台設定は1959年、フィラデルフィアのとあるジャズクラブ。このステージは、ビリー・ホリデイ最後のライヴ・パフォーマンスとなるのだが、もちろんご本人もファンもそんなことは知らない。ビリーは数々の名曲を歌い、途中でお酒をグラスに注いで飲みながら、過去に体験したさまざまな逸話を披露する。それは怒りをひそませた皮肉になったり、観客の笑いを誘うジョークとなったりする。黒人には頑としてトイレを使わせないレストランでのエピソードは特に強烈だ。痛快ではあるけれど、寒々とした気持ちを喚起させるのが悲しい。「歌えない」と言って途中で歌うのを拒否して楽屋に引っ込んだかと思えば、愛犬を連れて現れたり、ピアニストにしつこくからんだり、お酒のせいだろうか、ヘロヘロになってしまったり…。無茶苦茶やなあと思うところもあるのだが、カリスマと呼ばれた歌姫の人間くさい面が現れてきて、目が離せなくなる。
過去にビリー・ホリデイをダイアナ・ロス(『ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実』、シドニー・J・フューリー監督、1972年)や。アンドラ・デイ(『ザ・ユナイテッド・ステイツvs ビリー・ホリデイ』、リー・ダニエルズ監督、2021年)が演じ、それぞれに抜群の歌唱力をもって挑み、高い評価を得た。そして、このオードラ・マクドナルド。私の感じでは、ビリー本人より少々たくましさを感じる声だが、非常によく研究したなあと感心する歌いっぷりである。圧巻ともいえるパフォーマンスを楽しみながら、ビリーがもがきながら生き抜いたあの時代に思いを馳せたい。
(宮田 彩未)
公式サイト: https://broadwaycinema.jp/BillieHoliday
配給:松竹
©Evgenia Eliseeva