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『生きててごめんなさい』

 
       

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作品データ
制作年・国 2023年 日本 
上映時間 1時間47分
監督 監督・脚本:山口健人 企画・プロデュース:藤井道人
出演 黒羽麻璃央 穂志もえか 松井玲奈 安井順平 冨手麻妙 安藤聖 春海四方 山崎潤 長村航希 八木アリサ 飯島寛騎
公開日、上映劇場 2023年2月3日(金)~シネリーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、京都シネマ、2月10日(金)~ Kino cinema神戸国際 他全国順次公開

 

「普通って何?」生きづらさを抱えた若者たちの、

ありふれていて、脆くて、冴えなくて、だからこそ愛おしい物語。

 

なんともドキッとするタイトル。言葉通りに受け取ればとてつもなく重く響くし、自虐の文脈ならありそうな表現とも取れる。どんな内容なのかおっかなびっくり観てみると、のっけから一瞬にして心をつかまれ、何か瑞々しい物語が始まりそうな予感がした。


莉奈(穂志もえか)と園田(黒羽麻璃央)の出会いは、とある居酒屋。店のど真ん中で別れ話を繰り広げる客に八つ当たり気味にキレられた莉奈は、カニの足を客に向かって投げつけ店内は騒然となる。その拍子に足を挫いた莉奈を見かねた園田がおぶって連れ帰るのだが、それはその後の二人を端的にあらわして莉奈は園田に対しおんぶにだっこ状態となる。小説家を目指し出版社で働くアリのように勤勉な園田とキリギリスのごとき莉奈の立場が逆転する可能性など、このとき誰が想像しただろうか。


ikigome-500-1.jpgその後よくある業界の裏側みたいな世界を見せつつ仕事や恋愛の葛藤が描かれる。至るところハラスメントの嵐でややステレオタイプな上司や取引先が登場する。理不尽だけど言っていること全部が間違っている訳でもないから余計イラッとさせられるのだが、それより何より主役の二人が生身でそこに生きている、その存在感にやられてしまった。起こることは想像の範疇を超えてこないのにどうしてこんなに新鮮なのだろう。たいてい、この人はこういう性格だからこんなことをしそうだとアタリを付けてストーリーを追いがちで、途中までうんうん、そうだろう、そうだよな、と余裕をもって観ていた。


ikigome-500-2.jpgしかし後半、莉奈と園田が喧嘩をするシーンでお腹にずっしり重たいやつを食らってしまった(比喩です)。私たちは無意識に思い込みというフィルターを通してものを見ている。だから虚を突かれた。その位ありふれたことが、しかし丁寧にまっすぐに綴られていた。承認欲求という概念と言葉が日々行き交うSNSの世界で”イキゴメ”さんとしてバズっているインフルエンサーのハンドルネームはタイトルの略称だ。イキゴメさんは言う。「普通に生きろって言われても普通って何?普通変人天才凡人・・・私は普通になりたい」。


ikigome-500-3.jpg穂志さんの出演作は今までに何本か観ていて、いい意味で目立たない(浮かない)と思っていたが、今回は莉奈の、まるで小動物のように臆病で傷つき易い、一見すると薄そうなキャラクターが立体感を持って迫って来る。そのくらい切実さが全身からあふれていた。今でもおずおずキョトキョトした莉奈の目が瞼の裏に浮かぶようだ。不安、怒り、もどかしさ、瞳がその時々の感情を映し出す鏡のよう。対する黒羽さんもまた、シュッとしたルックスとソツのないふるまいからは想像できない迷いと葛藤を瞳に宿らせており、この二人がいなかったら表現しきれなかった世界観だ。今作のプロデューサーで2010年BABEL LABELを立ち上げた藤井道人氏も二人の演技に「嫉妬してしまうほど素晴らしい」と太鼓判を押す。監督は『アバランチ』でもタッグを組んだ山口健人だ。


ikigome-500-5.jpg二人の暮らす狭い部屋と外界の広がりとの対比が鮮やかで、大家がペットショップであることも重要なキーになっている。二人の関係性の窮屈さが空間の広がりによって逆に際立つシーンも印象的。人生の途上のわずか数年を切り取った物語だから、描かれる挫折も成功もあくまで過程に過ぎないが、その不完全さが愛おしい。今もやもやを抱えている人にはド直球に届くはず。しかし自信のなさと弱さは同義ではないと、捨てられた仔犬を抱く莉奈の背中が言っている。世代や立場は違っても必ず伝わるものがある普遍的な物語。と同時に時代性も感じさせる今こそ観たい、観て欲しい映画。

 

(山口 順子)

公式サイト:https://ikigome.com/ 

公式Twitter:https://twitter.com/ikigome_movie

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配給:渋谷プロダクション

製作:「イキゴメ」製作委員会

©2023 ikigome Film Partners

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