原題 | BABYLON |
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制作年・国 | 2022年 アメリカ |
上映時間 | 3時間9分 |
監督 | 監督・脚本:デイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』 撮影:リヌス・サンドグレン 音楽:ジャスティン・ハーウィッツ |
出演 | ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リー、P・J・バーン、ルーカス・ハース、オリヴィア・ハミルトン、トビー・マグワイア、マックス・ミンゲラ、ローリー・スコーヴェル、キャサリン・ウォーターストン、フリー、ジェフ・ガーリン、エリック・ロバーツ、イーサン・サプリ―、サマラ・ウィーヴィング、オリヴィア・ワイルドほか |
公開日、上映劇場 | 2023年2月10日(金)~全国ロードショー |
~映画の大変革期を駆け抜けた3人のキャラクター~
映画には大きな変革(革命?)が4つありました。1つ目はサイレント(無声)からトーキ(音声)へ、2つ目はモノクロ(白黒)からカラーへ、3つ目が画面のスタンダードからワイドへ、そして4つ目が二次元から三次元(3Ⅾ)へ。これらの中でも一番、激震を起こしたのが、何と言ってもトーキー映画の出現でした。
1927年、その世界初の長編映画『ジャズ・シンガー』がアメリカで公開され、銀幕から飛び出る歌声に観客がぶったまげました。日本では4年後の1931年、松竹映画『マダムと女房』が本邦初です。以降、俳優はルックスだけでは通用せず、声とセリフ回しを活かした演技力がモノを言うようになり、日本では活動弁士の働き場所がなくなっていきます。
そんな大変革期を舞台にしたのが本作です。監督がデイミアン・チャゼル。『セッション』(2014年)で注目され、『ラ・ラ・ランド』(2017年)で史上最年少でアカデミー賞の監督賞を受賞し、一気に頭角を現した俊英だけに興味津々、映画と対峙しました。
1926年のハリウッド。冒頭、あろうことか、いきなり場違いな象が登場し、おったまげた~! 驚いていると、何ともエネルギッシュで、凄まじいパーティー・シーンへと移っていきます。形容しがたいほどの乱痴気ぶり。まさに喧噪+狂騒の極致! 大スターのジャック・コンラッド(ブラッド・ピット)の大豪邸で映画のスタッフとキャストが集まり、バカ騒ぎを繰り広げているんです。あのフェデリコ・フェリーニ監督の『サテリコン』(1969年)の一場面が蘇ってきました。
当時、禁酒法時代(1920~33年)ですが、セレブや成金たちはそれこそ連夜、浴びるほど酒を飲みまくり、浮世を謳歌していました。俗にいう「ゴールデン・エイジ」。レオナルド・ディカプリオ主演の『華麗なるギャッツビー』(2013年)でもよく似たシーンがありましたね。しかし、3年後の世界恐慌で砂上の楼閣のごとく瓦解してしまいます。
冷静に考えると、映画がこの世に誕生してわずか30余年で想像を絶するほど《金のなる木》になっていたんですね。その中心地がハリウッドでした。チャップリン、キートンらのコメディーのみならず、いろんなジャンルのサイレント映画が量産されていました。野外での戦闘アクション・シーンを一発撮りし、映画には音が付かないのに、演者の気分を高めるためにオーケストラに演奏させるなんて、アンビリーバブル! こうした当時の撮影方法が一目瞭然でわかり、なかなか興味深かったです。
そんな活況呈する映画界に飛び込んできた新人女優のネリー・ラロイ(マーゴット・ロビー)と映画プロデューサーを目指すメキシコ人青年のマニー・トレス(ディエゴ・カルバ)の言動が、前述したジャックを絡ませ、ドラスティックに描かれていきます。スピード感満点で、観ている方がついていくのにやっとこさ。チャゼル監督のお家芸とはいえ、もう少しブレーキを踏んでほしかったです。せわしない(笑)
いわば、一匹オオカミのよそ者(アウトサイダー)ともいえるネリーとマニーは、チャンスとあれば、どんな些細なことでも異常なほど全力でぶつかり、這い上がっていくハングリー精神の持ち主です。何たって、《アメリカン・ドリーム》を体現できた時代ですからね。ネリーが何度も涙を流すシーンは、与えられた端役でもちゃんとグレードアップできることを立証していました。
登場人物は架空ですが、ネリーはサイレント時代に全盛を誇ったクララ・ボウとジョーン・クロフォードらしいです。マニーも実在した複数の映画人をミックスさせたキャラクターとか。御大のジャックは、ジョン・ギルバート、ダグラス・フェアバンクス、ルドルフ・ヴァレンティノといった往年の大物スターをヒントにしたそうです。ブラピ、めちゃめちゃ雰囲気がありました!
上昇機運に乗っていた彼ら3人ですが、トーキー映画の出現で歯車が狂い、どんどん下降傾向に……。サイレント映画の大スターの悲哀をあぶり出したビリー・ワイルダー監督の名作『サンセット大通り』(1950年)やフランス人のジャン・デュジャルダンが主演を務めた『アーティスト』(2011年)とよく似た展開ですね。
逆に、音のないサイレント時代では日陰的な存在だった黒人トランペット奏者のシドニー・パルマー(ジョヴァン・アデポ)がトーキーの時代になると、一転、主役級に躍り上がるところが、3人との絶妙な対比になっていました。こうした時代の変遷を、ひと癖ありそうな中年女性のゴシップ・ライター、エリノア(ジーン・スマート)が外野席から冷静、かつシニカルに眺めているのが面白かった。
全編、チャゼル監督の《映画愛》がびっしり詰め込まれています。終盤、マニーが映画館で涙する場面は、ジョゼッペ・トルナトーレ監督の名作『ニューシネマ・パラダイス』のラストシーンとそっくり。アングルも類似していました。ただ、愛情を詰め込みすぎて、少し息苦しさを感じたのも否めませんが……。まぁ、弱冠38歳と思えば、感情を溢れ出るのは致し方ないかもしれませんね。
本作をはじめ、インド版の『ニューシネマ・パラダイス』ともいえる『エンドロールのつづき』(公開中)、映画館を舞台にした滋味深いヒューマンドラマ『エンパイア・オブ・ライト』(2月23日公開)、そしてスティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的映画『フェイブルマンズ』(3月3日公開)――と映画+映画館を題材にした作品が目白押し。シネマ大好き人間にとっては、うれしくてたまりません!
武部 好伸(作家・エッセイスト)
公式サイト:babylon-movie.jp
配給:東和ピクチャーズ
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