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『ファミリア』

 
       

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作品データ
制作年・国 2022年 日本 
上映時間 2時間1分
監督 監督:成島出(『八日目の蝉』『ソロモンの偽証』『銀河鉄道の父』(2023)) 脚本:いながききよたか 撮影:藤澤順一
出演 役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊/MIYAVI、佐藤浩市
公開日、上映劇場 2023年1月6日(金)~なんばパークスシネマ、大阪ステーションシティシネマ、MOVIX京都、kino cinéma 神戸国際ほか全国公開

 

役所広司が背中で語り当事者が演じる、

純度100%日本の中のブラジル

 

愛知県や静岡県の中に、ブラジルがあるのを知っていますか?

ブラジルと言えば20世紀初頭、日本からの移民がブームとなり今やその数は約200万人にのぼる。一方で1980年頃からは逆に日系二世、三世の日本への入国が増え始め、バブル景気の1990年入管法改正を機に一気に増加する。しかし、2008年のリーマンショックによって状況は一変、失業者はあふれ今なお生活苦を強いられている。そんな在日ブラジル人社会の現実を成島出監督がつぶさに描き出した。


familiar-500-1.jpg神谷誠司(役所広司)は高齢化がすすみ斜陽産業となりつつある焼き物の里で一人暮らしをしている。妻には先立たれ男手一つで育て上げた息子の学(吉沢亮)は大手企業でプラント建設に携わっていた。赴任地・アルジェリアで現地女性ナディア(アリまらい果)と結婚し帰省の折、一家はブラジル人少年マルコス(サガエルカス)と知り合う。半グレ集団に追われ命からがら逃げてきたマルコスを助けたことからブラジル人コミュニティとの交流が始まる。一方、アルジェリアに戻った息子夫婦は誠司の元で窯業を継ぐと決め帰国の日を心待ちにしていたが、過激派武装グループによって監禁されてしまう。


familiar-500-3.jpg実際に起きた事件・事故を大胆に盛り込んで矢継ぎ早に見せるが、消化不良になることなくのみ込める。第一印象は自分はなんにも知らなかったんだということ。自分の身の回りの小さな社会の中だけで生きていると外の世界に疎くなる。新聞やニュースは日々の生活の中めまぐるしく消費され、一つの報道を見ても二転三転するから真実とフェイクの境目がどんどん曖昧になり現実感は失われていく。そんな時、物語の方がまっすぐ伝わってくることがある。この映画はフィクションだが純度100%、唯一無二の作品だ。


familiar-500-2.jpg脚本家いながききよたかは愛知県の出身、本作のロケ地である保見団地からほど近い所で生まれ育った。生活体験から生まれた脚本は息遣いが聞こえてきそうな臨場感だ。ブラジル人俳優はみなオーディションで選ばれた。日本ではまだ少ない当事者が演じたケースだが、これが功を奏した。作中にラップグループが登場するがこれも実際に活動している「GREEN KIDS」のメンバーだ。


familiar-500-6.jpg誠司の穏やかだった日常は学の事件によって脅かされる。まさにテレビの中の出来事がわが身に降りかかったのだ。さらにマルコスが巻き込まれたトラブルも相まって国や組織というものの矛盾や限界も描かれる。しかし、窮地に立たされた誠司の様々な思いは感情の爆発や怒声ではなく役所広司の佇まいから伝わってくる。土をこねる様子や窯に火を入れるさま、黙々と作業する姿からその人となりがにじみ出ておのずと心情も伝わるのだ。時に沈黙が言葉を重ねるより雄弁に物語ることがある。このムードは吉沢亮や終盤のサガエルカスにも通じるものがある。役所広司の静謐な佇まいが伝播したものにちがいない。


familiar-500-5.jpgそして、作品は半グレ集団との抗争の発端やナディアの生い立ちなど、物語の背景にも光を当てる。ふと国と国との戦争も実はこんなところから始まるのかもしれないと思った。家族や共同体の話ではあるが、それだけに留まらず視界をぐっと広げて人と人との心の交流が、コミュニティを、産業を、社会を、やがては未来を支え得るという希望を感じさせてくれる。まずは知るところから始めたい。それは他者へのまなざしを少し柔らかいものにしてくれるのではないだろうか。


※その他の日系ブラジル人を描いた作品「孤独なツバメたち デカセギの子どもに生まれて」(2012中村真夕監督)短編映画「ムイト・プラゼール」(2020朴正一監督)など


(山口 順子)

公式サイト:familiar-movie.jp

Twitter@familia_movie

配給:キノフィルムズ

製作委員会:木下グループ フェローズ ディグ&フェローズ

©2022「ファミリア」製作委員会

 
 

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