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『土を喰らう十二ヵ月』

 
       

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作品データ
制作年・国 2022年 日本 
上映時間 1時間51分
原作 原案:水上勉 『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』(新潮文庫刊) 『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』(文化出 版局刊)
監督 監督・脚本:中江裕司  料理監修:土井善晴  音楽:大友良英
出演 沢田研二、松たか子、檀ふみ、火野正平、奈良岡朋子、西田尚美、尾美まさのり、瀧川鯉八 他
公開日、上映劇場 2022年11月11日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、MOVIX京都、OSシネマズ神戸ハーバーランド、kino cinema 神戸国際 ほか全国ロードショー

 

~食を通して、ていねいに生きることの大切さを映し出す~

 

北アルプスを望む信州の村。自然に囲まれた古民家で、犬とともに暮らす作家・ツトム(沢田研二)は、畑で野菜を育て、山に出かけて山菜を集め、それらを自ら料理する。少年の頃、口減らしのため京都の禅寺に預けられたツトムは13歳で寺を脱走したものの、精進料理を学んだ。現在それにまつわる本の依頼を受けていて、時おり担当編集者の真知子(松たか子)が東京からやって来る。彼女はツトムの若い恋人でもあり、ツトムの料理をこよなく愛している。少しずつ原稿を進めるツトムだったが、ある日、思いも寄らぬ事態に襲われる。

 
tsuchiwokurau-500-1.jpg静かな映画だ。少年時代を京都の禅寺で過ごした作家・水上勉さんの料理エッセイ『土を喰う日々――わが精進十二ヵ月』を原案として、『ナヴィの恋』の中江裕司監督が脚本を書き、メガホンを取った。「立春 一年のはじまり」のように暦に沿った章立てで物語が進んでいく。最初にツトムが真知子を迎えて出すのは、干し柿とお抹茶。夜になると、囲炉裏端で熱燗の日本酒と焼いた小芋が用意される。その後も、食通ならじっと目を凝らしたくなるものがいろいろ登場する。


なかでも、印象的だったのは、とれたての竹の子の炊いたのを大急ぎで味わおうとするシーン、みそをつけて食べるたらの芽のいぶし焼に「昔の人はおいしいものを食べてたんだなあ」と大工に言われるシーン。驚くべきは、思い出の人がツトムに持ってきた60年前に漬けた梅干し。そんなに年月がたっても食べられるとは!どんな味なのかは、映画の中でツトムが食リポしているので、ご想像ください。


tsuchiwokurau-500-2.jpg立春から季節をひとめぐりする間に、ツトムの静かな暮らしにもいろいろな変化が訪れる。そして、後半にはツトムの死生観が色濃くにじみ出てくる。四季折々の鳥や虫の声、植物の色彩の移ろいを確かめながら、ツトムは死との向き合い方を模索するようになる。「自然の恵みに感謝し、それを大切に受けとめながら、いつ死んでもいいように一日一日ていねいに生きよう」という境地に達したのだろうと思った。


ジュリーと呼ばれ、伊達男の衣装がとても似合っていた沢田研二もはや70代。この映画の中で土のついた野菜や山菜をひたすら洗っている彼の姿に、いとおしいような親近感を覚えてしまう。それから、松たか子の食べっぷりの良さにも注目。「おいしい、ああ、おいしい!」と言って食べてくれるひとの存在は、食の時間をとびきり幸せにするものだと思った。素朴だが、趣を放つ料理については、料理研究家・土井善晴が指導・担当した。真の豊かさとは何か。この映画が声高でなく、普段使いの声で教えてくれる。

 

(宮田 彩未)

公式サイト: https://tsuchiwokurau12.jp/

配給:日活

©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会 tsuchiwokurau12.jp

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