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『アムステルダム』

 
       

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作品データ
原題 Amsterdam
制作年・国 2022年 アメリカ
上映時間 2時間14分
監督 監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル 製作:アーノン・ミルチャン、クリスチャン・ベール他  撮影監督:エマニュエル・ルベツキ  編集:ジェイ・キャシディ
出演 キャスト:クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン、ラミ・マレック、クリス・ロック、アニャ・テイラー=ジョイ、ゾーイ・サルダナ、マイク・マイヤーズ、マイケル・シャノン、テイラー・スウイフト/ロバート・デ・ニーロ
公開日、上映劇場 2020年10月28日(金)~全国公開


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~世界の歴史を塗り替える巨大な陰謀を暴いた3人組~

 

ぼくは歴史が大好き(得意?)で、とりわけ現代史には自信があると思っているんですが、第二次世界大戦前にアメリカでこんな陰謀が渦巻いていたとは知らなかった。ホンマかいな~と思ったけれど、本作の冒頭に「ほぼ、実話に基づいた物語」と説明されていたので、実際にあったのでしょう。ただ、「ほぼ」というのが微妙ですが……(笑)。


題名から、てっきりオランダの首都アムステルダムの物語と思いきや、ニューヨークが舞台でした。それも1933年の話です。この年、ヒトラーが首相に任命されてナチ党が政権を取り、日本が国際連盟を脱退するなど世界がどんどんキナ臭くなっていました。長引く不況で社会が沈滞し、6年後には第二次世界大戦に突入します。そういう暗い時代を、気だるさを充満させたセピア色の画調で表現していました。この空気感、フィリップ・マーロウが出てきそうな探偵映画の世界そのものですね。


Amsterdam-500-3.jpg物語の主人公は、右目に義眼を入れている開業医のバート(クリスチャン・ベール)、黒人の弁護士ハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)、ミステリアスな女流芸術家のヴァレリー(マーゴット・ロビー)という男2人、女1人のトリオ。バートとハロルドは、第一次世界大戦(1918年)で共に瀕死の重傷を負った戦友で、その2人を野戦病院でケアしたのが従軍看護師のヴァレリーでした。


意気投合した3人がアムステルダムで共同生活を送り、自由を謳歌します。この街は、彼らの〈固い絆〉を育んだ濃密な地だったので、映画のタイトルにしたのでしょう。その後、何やかんやあって(笑)、3人の共同体は瓦解しますが、15年後、ニューヨークで再びタッグを組み、謎めいた事件に巻き込まれていきます。


Amsterdam-500-5.jpgその事件とは、バートとハロルドが戦場で知り合ったミーキンズ将軍の娘リズ(テイラー・スウィフト)の依頼で亡き将軍の遺体を検死(解剖)すると、毒殺されていたことがわかり、直後、リズも殺されたという事案です。なぜ将軍の親子が命を奪われたのか……。うーむ、背後に何かがある。真相を探り始めたバートとハロルドが、リズ殺しの容疑者として警察に追われるというシチュエーションも付加価値的に面白いですね。


そのあと、えらい驚かされました! 事件と関わりがありそうな大富豪トム(ラミ・レミック)の妹が、何とアムステルダムで消息を絶ったヴァレリーだったんです。えっ、そんなアホな、あまりにも偶然すぎますがな。でも、そこに裏があるんです。彼女はなかなかやり手です。あっ、もうこれ以上は言えません。


Amsterdam-500-4.jpgその後、高名なギル将軍(ロバート・デ・ニーロ)が登場すると、物語がだんだんヒートアップしてきます。この人、殺されたミーキンズ将軍の僚友で、第一次大戦で出征した復員軍人に絶大な影響力を持っており、事件の背後に恐るべき企みがなされていることに感づいています。いわばキーパーソン。モデルになったのは、海兵隊のトップ、スメドリー・バトラーという大将らしいですね。


ここで前述した、ファシズムによる全体主義がはびこってくる1933年という時代が意味を持ってきます。当時、ドイツ、イタリア、日本だけでなく、イギリスやオランダ、スウェーデンなどの民主主義国家でもファシズムに同調する政治家が現れてきました。アメリカでも、超有名な飛行士リンドバーグがファシズムに走り、ドイツ系アメリカ人協会がナチスをPRしていましたが、まさか政府転覆まで想定した動きが水面下であったとは……。


Amsterdam-500-2.jpgつまり単なる殺人事件ではなく、世界を揺るがすとてつもない謀(はかりごと)。そんな極めて重要な歴史的事件を、ストレートかつシリアスに描かず、コミカルな要素をたっぷり盛り込んで寓話的に綴っていたのがとても印象的でした。3人組にしても、バートはどことなくひょうきんで、ヴァレリーはやっぱりけったいな女性です。まともなのはハロルドだけ。他の登場人物も一筋縄ではいきません。


これ、原作本の映画化ではなく、デヴィッド・O・ラッセル監督のオリジナル脚本なんですね。おそらく濃厚に取材したうえで、「遊び心」を持って脚色し、メガホンを握ったのでしょう。だから、「ほぼ実話」なんですね(笑)。それでもめちゃめちゃ刺激的でした。ボクサー兄弟の物語『ザ・ファイター』(2010年)を観て、この監督、ただ者ではないぞと思いました。実際の汚職事件をあぶり出した『アメリカン・ハッスル』(2013年)でも深い演出力にうならされました。64歳。なおも脂が乗り切っています。


Amsterdam-500-1.jpgそれにしても、キャストが豪華でした。3人組に扮した俳優たちには〈華〉があり、コンビネーションがまた素晴らしかった。トムがラミ・レミックとは最初のうち気づかなかったです。ちょっとしか出演しなかったけれど、リズ役のテイラー・スウィフトの可憐さ、トムの妻リビーに扮したアニャ・テイラー・ジョイのエキセントリックさも忘れ難いです。


しかし何といっても、ロバート・デ・ニーロ! この人が現れると、俄然、映像に風格が出てきますね。寿司で言えば、いきなり大トロといった感じ。ショーン・コネリーと同様、齢を重ねるにつれ、ええ塩梅になってきはりました。抑えのキャスティングにはぴったりの役者ですね。あの含み笑い、たまりませんわ。真似したいけれど、できません(笑)

 

というわけで、すごく贅沢な〈現代史秘話〉を満喫できました!

 

武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト: https://www.20thcenturystudios.jp/movies/amsterdam

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 

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