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『スペンサー ダイアナの決意』

 
       

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作品データ
原題 Spencer 
制作年・国 2021年 イギリス・ドイツ
上映時間  1時間57分
監督 監督:パブロ・ラライン『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』 脚本:スティーヴン・ナイト 撮影監督:クレア・マトン ヘアメイクデザイナー:吉原若菜 衣装デザイン:ジャクリーン・デュラン
出演 ダイアナ妃:クリステン・スチュワート、チャールズ皇太子:ジャック・ファーシング、アリステア・グレゴリー少佐:ティモシー・スポール、マギー:サリー・ホーキンス、ダレン:ショーン・ハリス
公開日、上映劇場 2022年10月14日(金)~TOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、MOVIX系など全国ロードショー

 

完璧なスタイルでダイアナを体現したクリステン・スチュワート。

クリスマスの3日間に集約されたダイアナの心象風景に迫る。

 

今年はダイアナ元妃没後25年。奇しくもエリザベス女王御逝去によりチャールズⅢ世新国王誕生の矢先に、ダイアナ元妃の異常な程の熱狂ぶりを伝えたドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』と、孤独と疎外感に苛まれたダイアナ元妃を象徴的に描いた劇映画『スペンサー ダイアナの決意』が公開される。ダイアナを追い詰めたものとは何だったのか? 本作は、毎年英国王族がクリスマス休暇を過ごすサンドリンガム宮殿での3日間を舞台に、精神的不安定なダイアナの心象風景を、静謐な映像や豪華なファッションでサスペンスフルに物語る迫力の逸品である。

 

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世間は常にファッショナブルで美しいダイアナ妃を追い掛けて、行く先々で大騒ぎ。だが、夫・チャールズ皇太子の心にはカミラという結婚前からの恋人がいて、ダイアナの人気が高まれば高まるほど夫の心は離れていくばかり。王子二人を産んでも夫の心は取り戻せず、姑であるエリザベス女王には「辛抱強く待てば夫は帰ってくる」と諭されるが、まだ20ー30代という若いダイアナにとって愛情の渇望と孤独感は耐え難いものであっただろう。摂食障害や自傷行為により治療を受けたり、自らも不倫に走ったりと、目に余る行為がダイアナを増々孤立させていった。これらのことは様々な資料で知られていることだが、それでも王族としての矜持を求められ、そのプレッシャーはどれほど彼女を追い詰めていったのだろうか。


本作は、そんなダイアナが苦悩の果てに進むべき方向性を見出すまでを、クリスマスで王族が集まるノーフォーク州にあるサンドリンガムでの3日間に絞って象徴的に描いている。サンドリンガム宮殿のすぐ隣にダイアナ妃の実家であるスペンサー家があったり(実際はノーサンプトンシャー州オルソープ)、結婚後10年という設定なのに二人の王子が大き過ぎたりと、あくまでもストーリーはフィクションとして観て頂きたい。


spencer-500-1.jpg本作は、護衛もつけず一人で運転して道に迷ってしまうダイアナ妃を捉えた映像から始まる。オープンカーで寒風にさらされながらもコートも羽織らず、時間を気にする様子もない。どんな場合でも女王より先に到着し遅刻は許されないというのに、「また叱られるかしら?」と気にする様子もない。スケジュールは勿論、身に着ける物もすべてが細かく決められており、好きな服を自由に楽しむことさえままならない。常に疎外感に苛まれ、自分自身を見失っては幻覚さえ見えてしまう。そんなダイアナの心の揺れを、重厚な映像のカットの繋ぎ方やダイアナの一挙手一投足を細やかに捉えたカメラワークで、見事なまでに醸し出された緊迫感で不安定さを表現。


さらに、ヘンリー八世に殺されたアン・ブーリン王妃の書物がベッドに置かれていたり、パパラッチ防衛のためカーテンを開けられないよう縫われたり、クリスマスディナーを囲む席でも冷ややかな視線に押し潰されそうになったりと、まるで華やかな宮殿がホラー屋敷のように映る。ダイアナ妃のことを不協和音を奏でるわがままな皇太子妃と捉えているグレゴリー少佐(ティモシー・ポール)や、唯一心を許せる衣装係のマギー(サリー・ホーキンス)に、冷え切った夫婦関係とはいえ二人の王子の母親でもあるダイアナを心配するチャールズ皇太子(ジャック・ファーシング)など、ダイアナを取り巻く人間関係も興味深い。中でも母親を心配するウィリアム王子の姿がいじらしい。(実際に母親から不倫の“恋バナ”を聞かされたこともあったという。)


spencer-500-2.jpgシャネルが全面プロデュースする衣装の全てが素晴らしい!それを完璧なスタイルで着こなし、危ういほどの繊細さで体現したクリステン・スチュワートの演技力も秀逸。最近見直されているダイアナファッションに目を奪われること間違いなし!また、ロケ地にも注目してほしい。毎年エリザベス女王のクリスマス・スピーチが放送されていたサンドリンガム宮殿の内部はあまり知られていない。そのため、イギリスではなく、ドイツの英国調の古城ホテル「シュロスホテル クロンベルク」で宮殿内部のシーンの大半を、そして「ノルトキルヒェン城」で宮殿屋外のシーンと内部の一部のシーンを撮影している。


チリ出身のパブロ・ラライン監督は、前作の『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でもケネディ大統領の妻・ジャクリーン・ケネディが暗殺事件から立ち直ろうとするまでを、寄り添うような映像で描写。特別な世界を生きる女性の葛藤をセンシティブに表現するのに長けた監督の、ダイアナという今なお人気の衰えない皇太子元妃の内面性を題材にした作品に、いまを生きる私たちは何を感じとれるのだろうか。

 

(河田 真喜子)

公式サイト: https://spencer-movie.com

#スペンサー Twitter:Spencerfilm2022

配給:STAR CHANNEL MOVIES  後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社

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