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『愛する人に伝える言葉』

 
       

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作品データ
原題 原題 De son vivant  
制作年・国 2021年 フランス
上映時間 2時間2分
監督 監督・脚本:エマニュエル・ベルコ(監督・脚本:『太陽のめざめ』『プレイヤー』、出演:『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』『バハールの涙』)
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメル、セシル・ド・フランス、ガブリエル・サラ 他
公開日、上映劇場 2022年10月7日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema神戸国際 ほか全国ロードショー

 

~残された生の時間を前にした、人の覚悟について想う~

 

誰もがいつかは死を迎える。それは不変の法則なのだが、医師から「余命は○〇です」と具体的な日数を告げられた時、どういう反応をするのだろうか。うろたえる、泣きじゃくる、黙って受け入れる…さまざまな自分を想像してみるけれど、実際にそういう体験をしていないから、何とも言えない。どうであれ、「じゃあ、これからどうするか?」について考えるだろう。通常、死は忌み嫌われているから、冒頭にこんなことをつらつら書いていると、暗く重たい映画なんだろうなという印象を与えかねないが、本作は悲しく切ないところはもちろんあっても(ある意味、闘病記だから)、何だか清涼剤みたいな後味を残すのだ。これは、後でも書くけれど、医師がイイ!断然イイ!しかも、本物のがん専門医が演じてて、元気をくれるような治療方針を貫いているからだ。


aisurututaeru-500-2.jpgクリスタル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は大きな試練に見舞われていた。まだ働き盛りの息子バンジャマン(ブノワ・マジメル)がすい臓がんになり、「ステージ4だから回復の見込みはない」と担当医のドクター・エデ(ガブリエル・サラ)に言われたからだ。バンジャマンは、俳優志望の学生たちに演技指導をする教師で、まだ授業を続けていたが、だんだんと体力が衰えていく。バンジャマンが病院で治療を受ける時に付き添うクリスタルは、自責の念にさいなまれるようになった。バンジャマンが昔つき合っていた彼女を気に入らず、子どもまでできたのに二人の仲を引き裂いたこと、そのせいで、バンジャマンが病気になったのだろうと考えたのだ。


aisurututaeru-500-3.jpgタイトルの『愛する人に伝える言葉』は5つ。1つを除いて、元気に生きている間でも、大切な人にきちんと伝えておくべき言葉だ。クリスタルとバンジャマンの関係性には、ややマザコン的な雰囲気が漂っていて、だからこそ、昔の彼女は離れていった(追いやられた?)のだろう。フランス人だから、というのもあるが、ハグするシーンなどはほとんど恋人同士といってもいい。重要な役割を担って、バンジャマンの息子が出てくるのだが、『愛する人に伝える言葉』をかけるまでに至らないところを見ても、『愛する人に伝える言葉』とはクリスタルとバンジャマン母子の間でのみ意味を持つものなのだ。


aisurututaeru-500-1.jpg.jpegさて、日本の医療現場ではあまり見かけないシーンが出てきて、驚くとともに「いいな!」と感じた。治療の合間に、ドクター・エデを中心に看護師たちが集まって楽器を鳴らし、歌を歌う。ある時には、音楽に合わせてタンゴを踊る男女のダンサーが病室を回っていく。重い病気を持つ患者と接する看護師だってストレスが溜まるから、看護する側にもそれを受ける側にも、いわば“エンタメ療法”を施している、そういう演出なのだと思った。ところが、これが現実に行われているようだ。ドクター・エデを演じたガブリエル・サラは、ニューヨークのマウント・サイナイ・ウェスト病院の上級指導医というのが本業で、音楽療法を取り入れている名医として広く知られているのだそう。患者に病状を正直に伝え、一緒に頑張りましょうと温かく励ましながら、“人生のデスクの整理”を勧める、その誠実な向き合い方にジィ~ンときた。このような医師と最後の日々を過ごせるなら、それも幸せなのだと感じるほどに。


ブノワ・マジメルは、エマニュエル・ベルコ監督でやはりカトリーヌ・ドヌーヴとも共演した『太陽のめざめ』(2015年)により、セザール賞助演男優賞に輝いたが、本作で2022年セザール賞最優秀男優賞を受賞。さらに磨きがかかってきた。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://hark3.com/aisuruhito/#modal

配給:ハーク、TMC、S・D・P

©Photo 2021 : Laurent CHAMPOUSSIN - LES FILMS DU KIOSQUE

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