原題 | 原題:보이스(ボイス) 英題:On the Line |
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制作年・国 | 2021年 韓国 |
上映時間 | 1時間49分 |
監督 | キム・ソン&キム・ゴク『ホワイト:呪いのメロディー』 |
出演 | ピョン・ヨハン(『茲山魚譜 チャサンオボ』、『太陽は動かない』)、キム・ムヨル『悪人伝』、キム・ヒウォン『鬼手』、パク・ミョンフン『ただ悪より救いたまえ』、イ・ジュヨン『サムジ ンカンパニー1995』 |
公開日、上映劇場 | 2022年10月7日(金)~新宿武蔵野館、シネマート心斎橋、イオンシネマ京都桂川、kino cinema 神戸国際 他にて全国順次ロードショー |
~超リアル! 振り込め詐欺の実像に迫る犯罪アクション~
孫を装い、「おばあちゃん、会社のお金が入ったカバンを落としてしまった。助けて!」というオレオレ詐欺。メールで、「有料サイトで課金されています。すぐに支払わないと裁判沙汰になります」という架空料金請求詐欺。役所の職員を装い、「還付金が戻ってきますよ。すぐにATMへ行ってください」という還付金詐欺……。
こうした振り込め詐欺を含む〈特殊詐欺〉が国内外を問わず、近年、増加していますね。とりわけSNSやスマホ・アプリなどを悪用した犯罪が際立ってきました。お隣の韓国でも深刻化しており、だからこそ、本作『声/姿なき犯罪者』のような映画が作られたのでしょう。
釜山の建設現場で予期せぬ転落事故が起き、作業員が宙づりになってしまいます。ちょうどその時、どういうわけかスマホ電話が不通に。現場チーフのソジュン(ピョン・ヨハン)が何とか作業員を救出し、事なきを得ましたが、彼の愛妻(ウォン・ジナ)の元に弁護士を名乗る男から電話が入ります。
「ご主人の過失による事故で作業員が亡くなりました。ご主人は警察に逮捕されています。示談を成立させますので、その費用をお願いします。銀行口座を教えてください。猶予はありません」
妻はショックを受けると同時に焦りまくり、疑いもせずに銀行口座を教えてしまいました。ありゃ、あかんがな。その後、夫から電話がかかり、預金の7000万ウォン(約700万円)がそっくり引き出されていたことが判明。呆然自失の彼女は交通事故に遭い、瀕死の重傷を負ってしまいます。
さらに、建設会社の社長が利用した中小企業支援サイトによって、作業員50人分の給料30億ウォン(約3億円)も会社の口座から消えていた! えらいこっちゃ! 転落事故も通信障害も事前に仕組まれており、中小企業支援サイトは架空のものでした。つまり、すべてカラクリがあったのです。
この冒頭シーン、非常にテンポがよく、グイグイ引き込まれます。明らかに組織的な犯罪と匂わせ、ソジュンが怒り+復讐心+正義心に燃え、単独で詐欺犯を追求していくのです。この男、すご腕の元麻薬捜査官というのがミソ。理不尽な一件で警察を辞していたんですねぇ。
さぁ、ここからスリリングな犯罪アクションになっていきます。あっと驚く方法で情報を探り、手がかりを掴んでいくソジュンの動きはまるでジェームズ・ボンドのよう。カッコええです。当然、警察の方も犯罪組織の動きを察知しており、ギュホ刑事(キム・ヒウォン)が率いる知能犯罪捜査隊が内定捜査を進めています。両者が巧みに絡み合い、かつ牽制し合い、犯罪組織に迫っていくプロセスはこの手の映画の定石ですね。
特殊詐欺の本拠地を海外に置いているケースが多く、この映画でもそうでした。そこにうまく潜り込んだソジュンが仲間に成りすまし、組織の全体像を把握していきます。普通の会社のような体制になっていたのにはビックリ。個人情報を巧みにゲットし、それを基にして計算し尽くされたシナリオを作る。そして「カモ」を見つけ、うまく引っかかったら、拍手が沸き起こる。ゲーム感覚でやっているところが怖い、怖い。
300億ウォン(約30億円)の大規模な詐欺計画を実行に移そうとしている本拠地の企画室総責任者クァク(キム・ムヨル)が冷血漢丸出しの人物で、平然とこんな言葉をうそぶきます。
「振り込め詐欺は〈共感〉が重要。相手の無知ではなく、希望と恐怖につけ込むのだ。この差が1億か10億の分かれ目になる。人の痛みを食いモノにする商売だ。どうせ食うなら、おいしく味わないと!」
ホンマに悪い奴ちゃ!
私事ですが、実は先日、〈特殊詐欺〉に遭いそうになりました。パソコンをいじくっているうちにワケの分からないサイトをクリックしたらしく、突然、画面が真っ黒になり、点滅が始まりました。「わっ、ウイルスに感染か!」。あわわ、あわわとうろたえていると、マイクロソフト社の画面が現れ、「今、シャットアウトすると、データがすべて失われます」の表示が出て、電話番号が記されていました。
これ、反射的に電話してしまいますね。即、電話すると、たどたどしい日本語を話す若い女性でした。外国人みたい。そして今の状況がいかに最悪なのかを画面で示し、「一刻も早くリカバーさせないと、銀行口座からお金が引き出されます。まずは手数料を振り込んでください」。こちらに考えるゆとりを与えず、焦らすんですよ。
ここでぼくはピンときました。これは怪しい。天下のマイクロソフト社が先に手数料を請求するなんてことはありえないから。ここから記者根性が出て、名前や身分証の番号を訊くと、曖昧な返答しか返ってこず、明らかに詐欺だとわかりました。しばし相手を泳がせてから、「ぼくは警察のサイバー攻撃特別捜査隊の捜査官を知っています。この件をきちんと伝えておきます」と言うと、いきなり電話を切られました。
以前、ぼくのブログが悪用されそうになったのを大阪府警サイバー攻撃特別捜査隊が察知し、未然に防いでくれたことがあり、実際に知っているんです(笑)。すぐに担当捜査官に伝えると、「この詐欺、横行しています。被害に遭わなくてよかったですね。PCをシャットダウンしてください。大丈夫です」との回答がありました。やれやれ。
本作は、こうした〈特殊詐欺〉を防ぐ観点からすれば、啓発映画ですね。組織的に動く知能犯罪集団は驚くほどしたたかで、賢いです。でも、悪は必ず滅びます!
ギュホ刑事の最後のセリフが光っていました。
「不審な電話には出ない。もし電話した場合、お金の話が出たら、すぐに切る。被害者はご自身を責めがちですが、被害者は悪くありません。犯人が悪質なんです。そういう輩を我々が逮捕します!」
おっ、頼もしい。皆さん、気をつけましょう!
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト: https://koe-voice.jp/
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