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『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』

 
       

新章パリ・オペラ座 メイン ポール・マルク&パク・セウン (2).png

       
作品データ
原題 Une saison (très) particulière  
制作年・国 2021年 フランス
上映時間 1時間13分
監督 プリシラ・ピザート
出演 パリ・オペラ座バレエ団:アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、パク・セウン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク、アレクサンダー・ネーフ(パリ・オペラ座総裁)、オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)
公開日、上映劇場 2022年8月19日(金)~Bunkamuraル・シネマ、大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次ロードショー

 

コロナ禍を経てさらに進化し続けるパリ・オペラ座バレエ団――。

苦境の日々にもプロの技と情熱がみなぎり、史上初の画期的瞬間に立ち会える。

まさに、新しいステージへの第一歩を捉えた貴重なドキュメンタリー

 

世界の名だたるバレエ団の中でも、世界最古のバレエ団にして“バレエの殿堂”と称されるパリ・オペラ座バレエ団。特に、『オペラ座の怪人』の舞台にもなっているパリ・オペラ座ガルニエは、世界中から観光客が訪れて常に賑わっていたが、世界中をパンデミックに陥れたコロナ禍で閉鎖されてしまう。「1日休めば自分が気づき、2日休めば教師が気づく。3日休めば観客が気づく―」と言われるほど日々の練習が欠かせないダンサーたちにとって、先の見えない状況の中試練の日々が続いた。


新章パリ・オペラ座 サブ3 マチュー・ガニオ レッスン.jpg2020年6月15日、ようやくクラスレッスンが再開される。本作は、ガルニエのシンボルマークにもなっているドーム型クーポラでの主役級のエトワールクラスの練習風景から始まり、全幕公演の見せ場とも言える群舞・コールドバレエに取り組むダンサーたちの悲喜こもごもや、2021年6月10日の『ロミオとジュリエット』公演までの日々を追っている。コロナ禍にあって、世界最高レベルのダンサーたちが本音を吐露し、苦悩する素顔を見せながらも、高度な技術や芸術の世界を極めようと努力する姿を捉えた映像は、何より感動と勇気を与えてくれる。


新章パリ・オペラ座 サブ5 ユーゴ・マルシャン レッスン.jpg長い自宅待機から復帰してのいきなりジャンプは危険極まりない。日頃ゲキを飛ばす厳しい先生も、ゆっくりと優しく慎重に練習を始めさせる。そして、2020年12月の『ラ・バヤデール』公演が決定する。古代インドの舞姫の悲恋物語『ラ・バヤデール』という大作で再出発をはかるのはダンサーだけでなくバレエ団全体にとっても大変なことだ。「観客はエトワールの踊りを観に来る」と言われる中で、全3幕版の一幕ごとにエトワールを交代させるという全員参加型の構成で、10月から本格的な練習が始まる。約1年ぶりの公演に向けて全員が期待に胸膨らませる中、ひと際目立っていたのが、エトワールのユーゴ・マルシャンと、ブロンズアイドル(金の仏像)を踊るプルミエ・ダンスールのポール・マルクだ。同僚が見守る練習場で、ダイナミックな連続ハイジャンプの後にピタッとキメポーズをとるマネージュで皆を魅了する。ブレない体軸の躍動感あふれる高度な技、練習風景だけでこれほど興奮して魅入ってしまうとは、さすがパリ・オペラ座、レベルが違う!


新章パリ・オペラ座 サブ4 舞台裏マスク (2).pngところが、コロナ禍の波は再びパリを飲み込み、公演4日前に公演中止が決定する。但し、無観客の公演を1回だけ配信するという。それでも、久々のオペラ座(バスティーユ)の舞台で踊れる興奮と緊張で堅くなりがちのダンサーたちに、ずっと鬼コーチのように指導してきたクロティルド・ヴァイエ先生が、「失敗しても受け入れて成長するのよ。失敗を恐れず舞台を創り上げるの。完璧は求めないわ。皆で最善を尽くすの。リラックスして!」と励ます。やっぱりダンサーたちの努力を一番理解して、バレエを愛しているんだな~と、胸が熱くなった。


一方、「拍手のない舞台でお辞儀するのは虚しい」とうなだれるダンサーもいた。観客あってのダンサー、観る人を幸せな気持ちにしたい、そのための日々の研鑽と努力があるのだ。終演後、ポール・マルクのエトワール昇格発表というサプライズが用意されていた。観客からの拍手はないが、皆の祝福に包まれた感動の舞台となった。
 


半年後、ポール・マルクのエトワール昇格後初となる主役作『ロミオとジュリエット』が、韓国人ダンサーのパク・セウン共演で公演される。ここでも、終演後サプライズが用意されていた。オペラ座バレエ学校出身でもなければ、フランス人でもない、パリ・オペラ座バレエ団史上初のアジア人のエトワールが誕生したのだ!これはかなり画期的なこと。伝統の壁を乗り越えて、パリ・オペラ座バレエ団が新しいステージへ進む第一歩が示された瞬間だった。



私的には世界の三大バレエ団は、モスクワのボリショイ・バレエ団、サンクトペテルブルクのマリインスキー・バレエ団、そしてパリ・オペラ座バレエ団だと思っている。ロンドンの英国ロイヤルバレエ団も多様性のあるユニークな作風で素晴らしいが、クラシック・バレエの真髄を面々と引き継ぐ伝統と、高度な技術で芸術性を極める圧倒的表現力は列挙した3つのバレエ団だと思う。


(パク・セウン主演の『ラ・スルス(泉)』をガルニエで観たことがあるが、華奢で優美な容姿に加え、妖精のような軽やかで繊細な踊りが印象的だった。)


(河田 真喜子)

公式サイト:https://gaga.ne.jp/parisopera_unusual/

配給:ギャガ

© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021

 

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