映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『ぜんぶ、ボクのせい』

 
       

zenboku-550-1.jpg

       
作品データ
制作年・国 2022年 日本 
上映時間 2時間1分
監督 監督・脚本:松本優作 エンディング・テーマ:大滝詠一「夢で逢えたら」 (NIAGARA RECORDS)
出演 白鳥晴都 川島鈴遥 松本まりか 若葉竜也 仲野太賀 片岡礼子 木竜麻生 駿河太郎/オダギリジョー
公開日、上映劇場 2022年8月11日(木・祝)~テアトル梅田、8月19日(金)~アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

母親に裏切られた少年が出会ったのは、

同じ孤独とトラウマを抱えるおっちゃんと女子高生だった。

 

近年、経済的理由だけではなく、子供を虐待する異常な親による悲惨な事件が頻発している。親を選べない子供にとって、どんな親でも実の親ほどいいものはない。親に必死ですがり着く子供の姿は憐れでやるせない。本作は、親子問題を抱える少年とおっちゃんと女子高生の、3人の出会いで生まれた愛情を描きつつ、子供を取り巻く社会の理不尽さを鋭く突いた感動作である。


児童養護施設で暮らす13歳の優太(白鳥晴都)は、中学生になったら母親が迎えに来てくれると信じて待ちわびていたが、一向に音沙汰がないので施設を脱け出し自ら会いに行く。ところが、久しぶりに会えた歓びも束の間、母親(松本まりか)は身も心も男(若葉竜也)に依存する自堕落な生活を送っており、優太を施設へ突き返す。「どうしてボクを産んだの?」と叫びながら逃げ出す優太。夢にまで見た母親はだらしない恰好でインスタントラーメンしか出してくれず、優太より男の方が大事だったのだ。


zenboku-500-3.jpg再び母親に捨てられた優太。絶望の面持ちで港の堤防に立っていると、「この変態オヤジ!」と女性に罵倒されお金のことで揉めているおっちゃん(オダギリジョー)を見掛ける。このおっちゃん、軽トラックの荷台で暮らすホームレスのようだが、余程お金に困っているのか、優太に「お金、持ってるか?」と聞いた上で狭い軽トラックに泊める。翌日から、お金を作るため自転車泥棒したり、当たり屋詐欺をやったり、廃品回収をするなど、ロクなことしか教えてくれない胡散臭いおっちゃん。それでも、絵を描くのが好きなことや、母親のことで心にトラウマを抱えていること、それに養護施設で育ったことなど優太と共通する処が多く、いつの間にか父親のような感情を抱くようになる。孤独な優太を否定せず優しく寄り添ってくれる初めての大人だったのだ。


zenboku-500-2.jpgそんなおっちゃんの元に会いにくる女子高生がいた。浜辺で焚火を囲みながら屈託なくお喋りしては、高台のいい家に帰っていく少女の名は詩織(川島鈴遥)。不良グループと付き合いがあったり、悪いバイトをしていたり、どこか問題を抱えているようだ。「何不自由ないようで、心が不自由」と、母親亡き後の家に居場所がなく、孤独と虚しさで“生きる意味”を見出せずにいるという。母親がよく歌っていた「夢で逢えたら」を優太のために歌う詩織は優しさにあふれていた。詩織やおっちゃんと一緒に過ごす楽しいひと時は、初めて感じる家庭の温もりのようで、幸せな気分になれる優太だったが……。


zenboku-500-1.jpg私は、苦言ばかりでうるさい親元を一日も早く出て行きたい!と中学・高校の頃、家出を繰り返していた。だが、いざ巣立ってみると、どれほど親に守られていたことかと、親のありがたみを実感。感情表現が下手で不器用な親だったが、その愛情に疑いはなかった。世の中にはいろいろな事情で親と暮らせない子供がいる。シングルの親や、内縁や義理の関係の親など複雑な境遇で安心して親に甘えられないケースもあるだろう。子供ながらに大人に気を遣いながら生きることの辛さや、家に居場所のない孤独感、信頼できる大人のいない心細さなど、大人になるまで想像すらしなかったように思う。


本作は、商業映画監督デビュー作となる29歳の松本優作監督のオリジナル脚本。人物の境遇や心情を映像で語る巧みさで、深刻なテーマながら全体を和やかな雰囲気に包み込んでいる。その最大の功労者はおっちゃん役のオダギリジョーだろう。少年を絶望の淵から救い出し、さらに生きる希望をもたらすという重要な存在なのだが、道理をわきまえた小悪人というか、憎めない愛すべき人物というか、オダギリジョーの飄々とした軽妙さが活かされているようだ。


また、本作が初主演となる14歳の白鳥晴都の、まだあどけなさの残る表情の奥に絶望を秘めたようなナイーブさにも魅了される。「どうしてボクを産んだの?」という少年の叫びと、「ボクが生まれて来たことがいけなかったの?」と言わんばかりの怒りを込めた眼差しに、心が射抜かれるようだった。

 

(河田 真喜子)

公式サイト:  https://bitters.co.jp/bokunosei/#

公式Twitter: https://twitter.com/bokunosei0811

配給:ビターズ・エンド

© 2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

 

カテゴリ

月別 アーカイブ