原題 | 原題:인질 |
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制作年・国 | 2021年 韓国 |
上映時間 | 1時間34分 |
監督 | ピル・カムソン |
出演 | ファン・ジョンミン(『ユア・マイ・サンシャイン』『国際市場で逢いましょう』『工作 黒金星と呼ばれた男』『ただ悪より救いたまえ』)、キム・ジェボム(ミュージカル「キム・ジョンウクを探して」「兄弟は勇敢だった」「ファンレター」、 イ・ユミ「イカゲーム」、 リュ・ギョンス「梨泰院クラス」 |
公開日、上映劇場 | 2022年9月9日(金)~シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート心斎橋、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、9月10日(土)~神戸元町映画館 他全国順次公開 |
~3つの顔を持つ男、ファン・ジョンミン~
韓国から一風変わった作品がやってきた。なんと実在の大物俳優が誘拐されるというもの。被害者はファン・ジョンミン。映画でも舞台でもこの人が出ればヒット間違いなしと言われる韓国屈指の俳優だ。ストーリーは脱出劇に重点を置いており、拉致されるまではあっという間だが、その数分だけで充分怖いのは韓国映画ならでは。空から捉えた犯行車両のショットがこれから始まる悪夢の予兆のようだ。
監督は本作が長編初監督となるピル・カムソン。アンディ・ラウ主演の中国映画「誘拐捜査」(2015)を下敷きに、出演が決まる前からファン・ジョンミンで脚本を当て書きした。そこまで惚れ込む理由は、前述の通りの絶大な人気とさらには舞台俳優としての確固たる実力があった。その目論見どおり、縛られて身動きできなくなってからが彼の本懐である。一番下っ端でトロそうな見張り役のヨンテを懐柔しようとあの手この手で駆け引きするシーンは見もの。俳優が誘拐されるという設定のなかに犯人グループを相手にハッタリをかましたり取り乱す小芝居が入る、言わば芝居の二重構造だ。百面相的なファン・ジョンミンが入れ替わり立ち代わり私たちの前に現れ、緊迫するドラマの絶妙なスパイスになっている。
その後は決死の逃走劇へと発展、縦横無尽にスクリーンを動き回る。手持ちカメラを使ったワンテイクでの撮影の臨場感は抜群だ。素に近い部分とアクションの両面が味わえ、まさに“どこを切ってもファン・ジョンミン”という、ファンにはたまらない作品になっている。さらには過去の共演者のカメオ出演というオマケまでついている。となると、逆にその辺りに詳しくない人はこの作品を楽しむことができるのだろうか?
そもそも本人役を演じるとは一体どういうものなのだろう。ドキュメンタリーやコメディ以外ではあまり観たことがない。この点を本人はインタビューでこう答えている。「誘拐されたことがないからわからない」と。あったら大変だが、意外な回答だ。なにしろ刑事に殺し屋、スパイに弁護士、市長に登山家に祈祷師と八面六臂の活躍ぶりなのだ。実体験がなくとも本物かと思う程リアルに演じ切り「哭声-コクソン」で演じた祈祷師に至ってはスカウトされたというではないか。しかし、極限状態で自分がどんな行動に出るかわからないというのは真理かもしれない。こうしようと決めていてもできるとは限らないのだ。
そう考えると、この脚本がかなり練られていることがわかる。本作の場合、本人のイメージを傷つけるような設定は使えないし初めから犯人も被害者も提示されているため謎解きで引っ張ることもできない。それなのにハラハラドキドキ。逃走の緊迫感のみならず要所要所にアレ?と思わせるネタが仕込まれている。加えて俳優陣の演技力とファン・ジョンミンの絶妙なさじ加減だ。彼が演じているのは実は一人の人間ではない。誘拐されるまでは俳優ファン・ジョンミンだが、監禁されているのは素のファン・ジョンミンであり、さらには大衆が持っているイメージがある。要するに3人の人物像があるのだ。それを演じ分けるという離れ業をやってのけた。
そしてキャストには撮影時まだ露出の少なかった俳優を揃えた。なかでも主犯ギワン役のキム・ジェボムとヨンテ役のチョン・ジェウォンは出色。ここまでくれば先程の問いに対する答えは明瞭。例えるなら本作は1話完結のシリーズもの。ファンはエピソード0から観ているけれど観ていなくても大丈夫。ということで本作はファン・ジョンミンをよく知らなくても、存分に楽しめるのだ!
(山口 順子)
公式サイト: https://hitoziti-movie.com/
配給:ツイン
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