原題 | A felesegem tortenete |
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制作年・国 | 2021年 ハンガリー、ドイツ、フランス、イタリア |
上映時間 | 2時間49分 |
監督 | イルディコー・エニェディ(『私の20世紀』『心と体と』) |
出演 | レア・セドゥ、ハイス・ナバー、ルイ・ガレル、セルジオ・ルビーニ、ルナ・ウェドラー他 |
公開日、上映劇場 | 2022年8月12日(金)~なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema神戸国際ほか全国ロードショー |
驚きのスピード婚に端を発した、“直球男”と“変化球女”の愛の行方
20世紀初めのマルタ共和国、とあるカフェで貨物船の船長を務めるヤコブ(ハイス・ナバー)は、同席していた友人に、結婚を考えていると話していた。そして、「次に店に入って来た女性と結婚する」と付け加えた。時をおかず、一人の若い女性が店に入ってきて腰をおろす。ヤコブは近づいていって、「私の妻になってくれ」と求婚した。それが、ヤコブの人生を左右するリジー(レア・セドゥ)との出会いだった。驚くべきことに、リジーはその日初めて会ったヤコブのプロポーズを受け入れ、そして、波乱万丈の結婚生活がスタートする。
夫婦の“すったもんだ”には、夫婦の数だけ理由がある。男の世界で生きてきたヤコブには、華やかな社交界を自由に泳ぎ回ってきたリジーのことが理解できないのだ。そして、ふたりの間をするすると通り抜けていくデダン(ルイ・ガレル)というリジーの男友達の存在が、ヤコブの神経を逆撫でする。それに、リジーが自分よりもずっと若いことにもこだわり始め、疑心暗鬼にかられる。船の上では優秀な船長であり、人望も厚いヤコブが、陸に戻ってくると、リジーに振り回されるというその姿。愛などまだ微塵も持っていない段階でプロポーズしたヤコブが、いつの間にか愛に執着し、それでいて愛を信じ切れない。寄り添い、離れ、行き場を失っていくふたりの心の騒めきを、『心と体と』で、第67回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたイルディコー・エニェディ監督が、実に繊細に描き切った。レア・セドゥとハイス・ナバーという、素晴らしい演じ手に恵まれたことも強調しておきたい。
169分の長尺。これを長いと感じるかどうかは、作風に対する好みが大きく作用するだろう。ハンガリーの作家ミラン・フストの小説を映像化したもので、文芸的なタッチとクラシックな雰囲気に私は魅了され、最後まで飽きることがなかった。監督は、ヤコブという“直球男”の視線から、“変化球女”のリジーをとらえる。だから、自由奔放でミステリアスなリジーが本当はどう思っているのか、彼女が何を求めているのか、けしてストレートには伝わってこない。それが物語の謎として、最後まで観客をも翻弄するのだ。
しかし、この映画には意外で切ない結末があって、それが長い余韻となって心の奥を揺らす。信じることの難しさ、真に理解し合うことの大切さ。それを思い出すたび、169分間のドラマにもう一度浸ってみたくなる。レア・セドゥの謎めいたあの瞳、ハイス・ナバーの実直さと不安がないまぜになったあの表情が、私を日常から連れ出そうとする。これは、お子ちゃまには到底アクセス不能な映画だといえそうだ。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://mywife.ayapro.ne.jp/
配給:彩プロ
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