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『プアン/友だちと呼ばせて』

 
       

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作品データ
原題 One for the Road 
制作年・国 2021年 タイ 
上映時間 2時間8分
監督 監督・脚本:バズ・プーンピリア(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』) 製作総指揮:ウォン・カ-ウァイ(『欲望の翼』『恋する惑星』『ブエノスアイレス』『花様年華』)、チャン・イーチェン
出演 トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、ヌン・シラパン
公開日、上映劇場 2022年8月5日(金)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、アップリンク京都、8月12日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

「悲しい別れがあったから、今の自分がある」

感謝と謝罪を伝える優しい別れの旅は未来へのエールと繋がる

 

またもやタイ発、極上のラブストーリーがやってきた。日本ではあまり一般公開されて来なかったタイ映画だが、近年、思いも寄らぬ発想で次々と新鮮な感動をもたらしてくれる。そのタイ映画界の若きホープ、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)の斬新な描写が記憶に新しいバズ・プーンピリア監督が、なんと香港映画界の巨匠ウォン・カーウァイに「一緒に映画を作ろう」と呼び掛けられたのが本作の始まりという。あの憧れのカーウァイ監督に才能を見込まれただけでも浮足立つところだが、そこは冷静に企画のテーマや自分の想いを分析して、タイの独自性を活かしながら納得いくまで脚本を練ったという。その甲斐あって、ニューヨークとタイの各地を巡る物語は、単なるセンチメンタルジャーニーではなく、この上なく洗練されたラブストーリーとして、観る者の心を癒し、過去に囚われるあまり生き辛く感じている人々に勇気を与えてくれる。


puan-500-1.jpgニューヨークでバーを営むボス(トー・タナポップ)は、毎夜パーティーのように客と酔い痴れる刹那的な日々を過ごしていた。そこへ、かつての親友ウード(アイス・ナッタラット)から「余命幾ばくもない僕のために、タイに帰って来てほしい」という電話が掛ってくる。かつてバーを共同経営しようと共に夢を追いかけていたウードだったが、ある理由でボスを置いて帰国してしまったのだ。ボスは、「何を今さら」と思いつつも、虚しい日々に飽きてきたところだったので、帰国することに…。


puan-500-6.jpg久しぶりに会うウードは余命宣告を受けてすっかり変容していた。(ウード役のアイスは17㎏も減量したというからびっくり!)彼の願いは、亡き父親とちゃんとお別れが言えなかったことが心残りだったので、かつての恋人にお別れを言いに行きたい。そこでボスに運転をして欲しいというものだった。「そんなことで…」とあまり乗り気ではないボスを無理やり連れ出し、いざかつての彼女の元へ!ところが、“彼女”は一人ではなく3人。せっかく訪ねて行っても、「会いたくない!」と怒りや悲しみを露わにする彼女たち。それでも、一人一人の心をほぐすように感謝と謝罪を伝え、優しい別れをするウード。DJをしていた父が遺したBMWのクラシックカーで、父のラジオ番組の録音テープを聴きながら旅は続く……。


puan-500-5.jpgバズ監督は、カーウァイ監督に最初に提示されたプロットから離れ、自分自身のこれまでの人生のすべてを脚本に投影したという。原題の『One for the Road』は「最後に何をするのか」という意味合いもあり、「最後に声を掛けるなら何を言うのか」と心の奥底から絞り出すようにストーリーを作り上げたそうだ。また、バーで脚本を書いたりデスクワークしたりすることが多いバズ監督は、バーが好きすぎて本作の脚本執筆中にお店をオープンさせてしまった程。劇中、何種類かのカクテルが登場するが、すべてバンコク市内にある監督のバー「One for the Road」のオリジナルばかり。カクテルが登場する度に、その深い想いに酔いしれることができるのもオシャレ!


puan-500-2.jpg多くの若者がそうであるように、ボスもウードも憧れのニューヨークで夢を叶えようと生きていたが、皆が成功するとは限らない。失恋や挫折を経てそれぞれの道を行くにしても、過去と対峙する勇気がないと自信を持って未来を生きられないと思う。ウード自身も過ちだらけの人生を振り返り、感謝と謝罪を伝える優しい別れで最期を締めくくろうとする。この映画の素晴らしい処は、成功云々よりももっと大切なことを教えてくれる。それは、人の想いに寄り添い、自分の真心を伝えること。最後に用意されたウードからボスへの贈り物は、虚しく生きるボスには衝撃的な真実だったが……。


puan-500-3.jpg『欲望の翼』や『恋する惑星』『ブエノスアイレス』などのように、時空を超えたノスタルジックな雰囲気の映像美や魅力あふれる俳優たちの表情が沁み入るように心に残る映画だ。ウォン・カーウァイ監督作へのリスペクトを込めた、ボリューミーな感動ラブストーリーに身も心も浸ってほしい。

 

(河田 真喜子)

公式サイト:https://gaga.ne.jp/puan/

配給:ギャガ

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