原題 | Saint Frances |
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制作年・国 | 2019年 アメリカ |
上映時間 | 1時間41分 |
監督 | 監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリバン |
出演 | ケリー・オサリバン、ラモナ・エディス=ウィリアムズ、チャーリン・アルバレス、リリー・モジェク、マックス・リプシッツ |
公開日、上映劇場 | 2022年8月19日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、近日~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~人と人とが出会い、育ち合うひと夏の物語~
ブリジットは大学中退・定職なし・恋人なしの、人生に行き詰りを感じる34歳。あるとき友人の紹介で第二子出産を控えたレズビアンカップルの長子の子守りをすることになる。気楽に付き合えそうなボーイフレンドもみつかって運気上昇中!と思ったのも束の間、予想外の妊娠が発覚。バッドコンディションで面倒をみるのはとても一筋縄ではいきそうにない6歳の少女フランシス(ラモーナ・エディス=ウィリアムズ)。なにしろちょっと注意しようものなら「誘拐だ!」と騒ぎ立て警察を呼ぶ始末なのだ。“詰んだ!”とでも言いたくなるこの状況に救世主は現れるのか?
アレックス・トンプソン監督×脚本/主演のケリー・オサリヴァンがミレニアル世代の等身大の日常をユーモラスにテンポよくまとめあげた。かつて日本でも女性の結婚年齢がクリスマスだの大晦日だの言われた時代があったが、法整備がすすむと今度は出産だキャリアだと女性により多くのことを要求するようになった。時代は変わっても女性の悩みは共通と言えそうだが、経済状況を鑑みればブリジットの焦燥感や葛藤はより深刻と言える。しかし、この作品はそれを声高に叫ぶのではなくむしろ淡々と描き出している。驚いたのは徹底して女性性に切り込んでいること。ここまであけすけにあっけらかんと女性性を描き切った作品をはじめて観た。つまり生理や妊娠、出産、そして堕胎について真正面から描いているのだ。
人間同士理解し合うのにジェンダーは関係ないと言いたいところだが、個々のメンタリティは個々のボディと切っても切り離せない。だからこそ体への理解は不可欠なのだとストレートに伝わってくる。前半はこの辺りを仔細に描いており、少々ヘビーなシーンもあるのだが「生理の貧困」という言葉が朝のニュースでも聞かれるようになった。隠す時代はもう終わったのだ。
一転、後半ではブリジットとフランシスの距離が縮まってゆくにつれ物語が一気に加速する。このリズム感がなんとも心地良い。アレックス・トンプソン監督は長編初作品となるが、これまでミュージックビデオやダンス映画を手掛けてきたと聞いて納得。一度カタチになったものから20分も削ったというから驚きだ。同性婚、人種問題、産後うつなど社会問題を盛り込みながら今を生きる女性たちの生の声を届けている。
さて、作中キリスト像や洗礼のシーンなどが印象的に使われている。そこには敬虔なカトリック教徒であるフランシスの母マヤと信仰から遠ざかっているブリジットという対比があるのだが、ここに作品のもうひとつの魅力がある。それは相反する価値観を並列に提示しつつ天秤のバランスをどちらかに傾けていないところだ。批判はしても否定はしない。だから、私たちはこの物語を善し悪しでなくありのままに受け取ることができる。
ブリジットは言う。「もっと立派になりたかった」と。けれど、立派に見えたマヤたちも実はそれぞれ抱えるものがあるようで、スクリーンの向こうから人生“上がり”はないと語りかけてくるようだ。しかし同時に肩をポンポンと叩いてくれるようでもある。言葉にすればひと夏の思い出ということになる。でも、それは一言では語り尽くせない、人生観さえ変わるような、とっておきの何かがパンパンに詰まったひと夏なのだ。
夏の盛りにうるさく鳴きかわすセミの大合唱が途切れ、ほんの一瞬、静寂が訪れることがある。ラストシーンでそんな感覚がよぎった。さーっと風が吹き抜けた気がした。そして、フランシスの憎たらしさと愛らしさは最高だとやっぱり言っておきたい。
(山口 順子)
公式サイト:https://www.hark3.com/frances/#modal
配給:ハーク 配給協力:FLICKK
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