制作年・国 | 2022年 日本 |
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上映時間 | 96分 |
監督 | 監督:金沢知樹 脚本:金沢知樹 萩森淳 撮影:菅祐輔 音楽:大島ミチル 主題歌:ANCHOR「キズナ feat. りりあ。」(VIA / TOY'S FACTORY) |
出演 | 番家一路 原田琥之佑 尾野真千子 竹原ピストル 村川絵梨 福地桃子 ゴリけん 八村倫太郎(WATWING) 茅島みずき 篠原 篤 泉澤祐希 貫地谷しほり 草彅剛 岩松了 |
公開日、上映劇場 | 2022年8月19日(金)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、T・ジョイ京都、kino cinema 神戸国際 他全国ロードショー |
~かけがえのない友情を育んだ、刺激的な「ひと夏の物語」~
子供が主人公の映画が好きです。世間知らずなだけに、健気さとひたむきさが際立ち、そこに無性に惹かれてしまうからです。それが冒険譚ならなおさら見入ってしまいます。本作はその典型的な映画でした。しかも、「ひと夏の物語」というのがわかりやすくてグッド!
「ぼくには、サバの缶詰を見ると、思い出す少年がいる。あの夏を忘れることはないだろう……」
草彅剛扮する、売れない、冴えない小説家の久田孝明が遠い過去を振り返りながら、パソコンを打っていくシーンから本筋が始まります。常套手段的な導入ですが、それがしっくりきていました。
1986年の夏、長崎県の大村湾に面した長与町。小学校5年2組の久田君と同級生、竹本健次君との交友が瑞々しく描かれていきます。久田君はちょっと気が弱く、繊細で、どこにでもいそうな子。当時のアイドル、斉藤由貴に首ったけです。一方、竹本君は寡黙で、人を寄せつけない一匹オオカミ。おとなしい久田君と野性的な竹本君。対照的なコンビというのは、バディー映画の定石ですね。
竹本君はいつも同じランニング姿で、粗末な家に住んでおり、同級生からバカにされているのですが、久田君はそれに距離を置いていました。その「優しさ」が、だれも友達のいない、ハミゴになっている孤独な児童の心を刺激するのです。ぼくの幼いころには、竹本君のような子が周りに何人もいました。日本が豊かになった80年代になっても、まだそういう子がいたんですね。ちょっとアンビリーバブル。
2人の子役が光っていました。久田君役の番家一路は、NHK連続小説『おかえりモネ』で出演していたらしいですが、本作で映画デビュー。オドオドしているところは地なのかも(笑)。竹本君に扮した原田琥之佑は全くの新人さん。一見、線が細そうに見えるのに、切れ長の目が鋭く、独特な存在感を放っています。この子、伸びそう。
夏休み、竹本君が久田君を誘いにきます。町から遠いブーメラン島にイルカが現れたという情報を聞き、一緒に見に行こうと。ブーメラン島って本当にあるんですね。さぁ、ここから、2人の冒険の始まり、始まり。ハプニング続きの道中が、あの名作『スタンド・バイ・ミー』(1986年)を彷彿とさせ、ノスタルジックな気分に浸らせてくれます。
ここでも竹本君がボスで、久田君は主人に従う忠実なワンちゃんみたい。内心は腹立っていたのでしょうが、顔には出せない。そんなアカンタレなところが共感を呼ぶのです。驚いたのは、11歳の子が島まで泳いでいったこと。潮流があるはずなのに、そんなことできるんかいな。
日帰りの遠出とはいえ、2人にとっては初めての旅。このプロセスが、ちょっと危なっかしくて、何ともほほ笑ましい。とりわけ年上のヤンキー連中に久田君が絡まれ、竹本君が果敢に助けるシーンが秀逸でした。それを機に2人の友情が確固としたものになっていきます。
別れるとき、「タケちゃん、またねー」、「ヒサちゃん、またねー」。互いにニックネームで呼び合うようになっていて、ジーンときました!(以下、ヒサちゃん、タケちゃんと書きます)。
ヒサちゃんの家は個性豊かです。強面の竹原ピストル扮する父親が、息子以上に斉藤由貴の猛烈ファンで、何ともだらしなく、かなりええ加減です。しかし子たちには愛情をたっぷり注いでおり、ヒサちゃんと弟に好かれています。
家を仕切るのが、尾野真千子扮する肝っ玉母ちゃん。この人の演技、どんどん進化していってますね。奈良出身なのに、完全に九州女になりきり、ダメ親父の頭をパンパンはたいてはりました。200%「かかあ天下」ですわ(笑)。やたら家族団らんの食事場面が多いのは、決して豊かではないけれど、仲睦まじい家族であることを強調させたかったのでしょう。
タケちゃんの家は、漁師の父親が早く亡くなり、これまたしっかり者の母親(貫地谷しほり)がスーパーで働き、5人の子を育てている母子家庭。弟と妹の面倒を見ているタケちゃんが父親代わりで、だからこそ一本芯が通っているんですね。母親が楽天的で底抜けに明るく、ひがみ根性もないから、子たちはまともに育っています。貧しいけれど、健全な家庭です。
題名のサバカン(サバ缶)がちゃんと出てきます。タケちゃんが、父親伝授のサバ缶寿司をヒサちゃんに作ってあげるんです。マルハ(大洋漁業)の赤いラベルの「さば味噌煮」缶詰。マルハと言えば、プロ野球の大洋ホエールズ! 懐かしい。マルハはマルハニチロに受け継がれ、ホエールズは横浜DeNAベイスターズになっちゃいましたね。あゝ、隔世の感……。
この缶詰、学生時代によく食べました。大概、ご飯にぶっかけてましたが、まさか寿司でいただくとは! お寿司屋さんにはそんなメニューないですよね。さっそく家でトライしてみますわ。
この映画、てっきり原作があると思っていました。作風からして、重松清の小説かなと。ところが違った。地元出身の金沢知樹監督が自らの体験をベースにして書いたオリジナル脚本なんです。すごくこなれていて、郷土愛がビンビン伝わってきました。キラキラ輝く男の子の“青春映画”、たまりませんなぁ。
海辺に隣接する長崎本線長与駅の風情がことさら素晴らしかった! ヒサちゃんとタケちゃんの別れのシーンと再会のシーンで舞台として使われていました。でも、地図で調べると、長与駅は内陸にあるんですよ。これ、どこやろ? 気になって仕方がありません(笑)。
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト:https://sabakan-movie.com/
配給:キノフィルムズ/製作:CULEN ギークサイト
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