これが史実だということに、ひたすら震撼！

敵同士だが同じ民族、迫り来る恐怖と共に闘った決死の脱出劇

韓国と北朝鮮との関係について映画やドラマを通してしか知ることがない私たちは、韓流ブームの火付け役ともなった『シュリ』や『ＪＳＡ』が大ヒットした1999年位からイメージするようになった。そして本作は、1991年1月、ソマリアの首都モガディシオで勃発した大暴動に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちの決死の脱出劇を、史実を基に作られている。とてもこれが実話とは思えない程の恐怖を、斬新な映像で捉えた波状攻撃のアクションで惹きつけ、さらにドラマチックな人間模様を展開する。不謹慎だが、ゾンビ映画よりはるかに絶体絶命の恐怖を体感できると思う。

1991年1月、ソマリアの首都モガディシオになだれ込んできた反乱軍により民衆の大暴動が勃発。それを制圧しようとする政府軍や警察との戦闘は外国人をも巻き込む無差別の殺戮へと発展。空港や通信・インフラも遮断され、外国大使館も襲撃される非常事態。逃げ遅れた北朝鮮の大使館員たちは中国大使館を頼るも既に炎に包まれ、仕方なく休戦中とはいえ敵国の韓国大使館へ救いを求める。韓国側は、日頃から外交を邪魔され敵対していたにもかかわらず、人道的見地からか、あるいは帰順（韓国側へ転向する）を期待してか、北朝鮮の大使館員とその家族13名を受け入れる。彼らが、突然の暴動と戦闘状態の中をどう生き抜いたのか、迫り来る殺戮者を避けながら銃弾の雨をくぐり抜けていかに脱出できたのか――？

1988年にソウルオリンピックを開催した韓国が、その時点でもまだ国連に加盟できていなかったとは意外だった。その頃から国連での投票権数の多いアフリカ諸国へ積極的外交を進めていたが、北朝鮮は20年も前から始めており、ソマリアでも先行する北朝鮮に妨害されてばかりだった。そして1991年1月、モガディシオで勃発した大暴動で北朝鮮の大使館員たちを受け入れた韓国大使館の中では、お互い疑心暗鬼になりながらも協力して脱出を図ることになる。

同じ民族とはいえ朝鮮戦争後も休戦中の敵対する者同士。韓国側に助けてもらったとか、あるいは北朝鮮側を帰順させられなかったとか、それぞれの本国に知れたら懲罰を受けることは必至。お互い生きて帰国することを第一の使命としながらも、この事実を公表する訳にはいかなかったのである。帰国直後に韓国の新聞で取り上げられたが、それほど話題にはならず、15年後に韓国側の大使が1冊の本にまとめて出版。さらに15年後に映画化され、2021年、コロナ禍の韓国で№１大ヒットとなったのである。

本作の撮影は、現在も政情不安が続くソマリアではなく、街並みや風情が似ているというモロッコでのオールロケーションとなった。監督は、センセーショナルな題材を斬新な作風で圧倒して“韓国のタランティーノ”と言われているリュ・スンワン監督。今回も彼の代表作『ベルリンファイル』のスタッフが海外ロケを支えたという。危機的状況の作品が似合う『チェイサー』のキム・ユンソクが初代ソマリア大使を演じ、北朝鮮側の大使役には『シルミド』を始め多くの作品に出演している名バイブレーヤーのホ・ジュノと、この二人の深い人間性で決死の脱出劇が比類なきドラマチックなものとなっている。

私たちは、2021年8月のアフガニスタンの首都カブールからの決死の脱出劇を目の当たりにしたばかりだ。空港へ押し寄せる群衆や飛び立つ飛行機にすがり着く人々、多くの犠牲者を出し、急激な首都陥落がどれほど恐ろしいものかをリアルタイムで実感した。さらに、今年のロシアによるウクライナ侵攻。未だに戦争状況にあり、日々多くの犠牲者を出している。人間は暴動あるいは戦争というカオスに陥ると、いっさいの規律や常識や道徳心が失われ、残虐性という本能だけがむき出しになるようだ。この世の中で一番恐ろしいもの、それは人間だ。それでも、わずかに残る善意の人間性が絶望から救ってくれる、とこの映画を観てそう思った。

（河田 真喜子）

公式サイト：https://mogadishu-movie.com/

配給：ツイン

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