制作年・国 | 2022年 日本 |
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上映時間 | 1時間59分 |
原作 | 島崎藤村「破戒」 |
監督 | 前田和男 |
出演 | 間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、高橋和也、小林綾子、大東駿介、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、眞島秀和他 |
公開日、上映劇場 | 2022年7月8日(金)~梅田ブルク7、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸ほか全国ロードショー |
~差別の構図の中でもがく青年の、葛藤と純愛を細密に描く~
小学校の教員・瀬川丑松(間宮祥太朗)は、むごい場面を目撃する。身なりの良いひとりの男(石橋蓮司)が人々に罵倒され、ものを投げつけられている。その男が被差別部落出身者だったことが判明したため、このような扱いを受けたのだ。それをじっと見ている丑松の心が騒ぐ。彼もまた被差別部落で生まれ育った。息子の将来を心配した亡き父(田中要次)は「素性を隠せ!」という戒めを丑松に与え、それを固く守りつつ故郷を離れた丑松だった。事実が知れると、人々から蔑まれ、小学校教員の仕事も失ってしまう。だが、自分の出自を隠しているという負い目や、下宿先の養女である志保(石井杏奈)への恋心が、次第に丑松の悩みを深くしていく。被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)を師と仰ぎ、青年らしい情熱を表に見せるようになった丑松だったが、重大なある事件が起き…。
明治後期に島崎藤村が書いた『破戒』は、これまで二度映画化された。1948年の木下恵介監督作(丑松役は池部良、志保役は桂木洋子)、1962年の市川崑監督作(丑松役は市川雷蔵、志保役は藤村志保)である。この新作では、時代設定は明治であっても、やはりどことなく今の雰囲気が感じられる。間宮祥太朗は、病気のために惜しまれつつ阪神タイガースを退団した横田慎太郎選手を演じたドラマ『奇跡のバックホーム』でも印象的だったが、彼の美形は悲劇が似合う。『ロミオとジュリエット』のような。一方、丑松の同僚教師・銀之助を演じた矢本悠馬には天性の明るさがあって、「この人にはうそはつけない」と思わせるような役どころがぴったりだと思う。
丑松が教師なので、ある意味、学園ものといえる要素も十分。そこに、差別意識や、権力を持つ人たちの横暴が絡み合い、最初は丑松一人の懊悩だったのが、一触即発のアブナイ状況になっていく。“身分が違う”という意味、その感覚を、現代の若者たちはどうとらえるだろうか。丑松が生徒たちに頭を下げるシーンは涙を誘うが、ここにある彼の「自我」がどういう形をしているのか、よく見つめなければならないと思う。
社会派の色合いが濃いが、純な恋愛映画でもある。丑松と志保が最初に同席する場面では、目を合わせない。これが美しいとか奥ゆかしいなどとは思わないが、「明治は遠くなりにけり」。そういう時代もあったのだなあと、最近あまり見かけない珍しいものを見た感じ。それまでのトーンから一転、ポジティブというか、能天気にも見えるエンディングは、希望を表しているが、藤村が書いた原作では、もっとすっ飛んでて、丑松はアメリカのテキサスに行く話を持ち掛けられるのだ。テキサス!これを脚本に入れなかったのは、やはり時代性に配慮してのことだろうか、な。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://hakai-movie.com/
配給:東映ビデオ
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