原題 | Elvis |
---|---|
制作年・国 | 2022年 アメリカ |
上映時間 | 2時間39分 |
監督 | 脚本・監督・製作:バズ・ラーマン(『ロミオ+ジュリエット』『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャッツビー』) |
出演 | オースティン・バトラー(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/トム・ハンクス『フォレスト・ガンプ/一期一会』/オリヴィア・デヨング(『ヴィジット』) |
公開日、上映劇場 | 2022年7月1日(金)~大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、TOHOシネマズ系、MOVIX系、イオンシネマ系、他全国ロードショー |
「ザ・キング・オブ・ロックンロール」のプレスリーをリスペクトした
パワフルな音楽映画
エルヴィス・プレスリー(1935~77年)--。今のヤング諸君はまず知らないでしょうね。「団塊の世代」にはビンビンくるはずですが、その下の世代に当たるぼくには少し縁遠い存在です。なぜなら、高校に入学した1970年にビートルズの洗礼を受け、そのときプレスリーは旬(全盛)を過ぎ、何となく「過去の人」になっていたからです。
しかもロック全盛の世にあって、ラスベガスの高級ホテルで、リッチな客を前にしてド派手なジャンプスーツ姿でステージに立っているのを見て、めちゃめちゃ違和感を抱きました。日本で言えば、北島三郎や村田英雄の歌謡ショーといった感じ。でも、ビートルズやボブ・ディランら名だたるミュージシャンがリスペクトしており、プレスリーがいなければ、間違いなくその後のポップスやロックはなかったと思います。
そこのところを踏まえて本作を観ると、プレスリーの実像がわかりやすく描かれていました。アメリカ南部テネシー州メンフィスで育ち、19歳の時にロックンローラーの1人として頭角を現し、腰を振ってセックスアピールを強調するという過激なスタイルで抜きん出て、歌手のみならず映画俳優としても大活躍。1950年代後半から60年代前半に大ブレークしました。
貧困ゆえに黒人居住区で暮らしていたので、ごく当たり前のようにブルースやR&B(リズム&ブルース)といった黒人音楽に溶け込み、それが後に「武器」として活きてくるんですね。公民権運動の前とあって、南部ではことさら人種差別が激しかったのに、黒人信者が集まる教会にもぐり込んでゴスペルにハマったり、若かりし頃のB.B.キングらがたむろする黒人専用のライブハウスへ顔を覗かせたり……。何の偏見もない爽やかな面を際立たせていました。
本作は、クイーンのフレディ・マーキュリーを主人公にした大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)にあやかって製作されたのは明らかですね(笑)。だからフレディにそっくりなラミ・マレックのように、プレスリー役もよく似たオースティン・バトラーが起用されました。
いやぁ、顔立ちといい、歌うスタイルといい、雰囲気といい、プレスリー丸出し! 特に右斜め下から見た顔が瓜二つでした。「ものまねグランプリ」に出場したら、断トツで優勝しますわ。バトラーはよほど役作りに没頭したんでしょうね。思いのほか声量も豊かで、ひょっとしたらプレスリーを上回っているかも!?
もう1人の主人公が物語に深みを与えています。狂言回しと言う方が適切かもしれませんが。その人物とは、プレスリーのマネージャーを買って出た「パーカー大佐」こと、トム・パーカーという中年男。音楽には全く関心がなく、プレスリーを単なる金づるとしか思っていないプロモーターで、見るからに胡散臭い。
この男に扮したのが名優トム・ハンクス。ギラギラ野望を燃えたぎらせ、吐き気がするほどふてぶてしい。どう見ても化け物っぽい。そんな嫌がられるタイプの人間を、ハンクスが楽しんで、余裕を持って演じてはりました。ロバート・デ・ニーロ、ケヴン・スペイシー、ロバート・ダウニー・Jrといった濃厚な俳優なら十分こなせると思うけれど、どこか愛嬌のあるところはこの人でないと出ませんね。
トム・パーカーとはいったい何モンやねん? 謎めいているこの人物の実像に迫っていく脇筋が思いのほか面白い。プレスリーにとってだんだん疎ましい存在になってくるのに、いかんせん断ち切れない辛さ。そこが肝になっていました。パーカーの正体が明るみになり、ぼくは驚きました!
映画は、このパーカーとの腐れ縁を軸にしながら、時代の流れに乗れず、妻プリシラ(オリヴィア・デヨング)との関係に苦悶し、やがてショーマンとして再生していく姿が描かれています。カムバックしたといっても、昔のヒット曲やカバー曲ばかり歌っているプレスリーはぼくとしては全く魅力的ではなかったです(笑)。
でも、『ハートブレイク・ホテル』、『監獄ロック』、『ラブ・ミー・テンダー』など懐かしいサウンドが流れると、頭が覚醒しました。パブロフの条件反射か!(笑) 映画を観てから、プレスリーの曲を改めて聴くと、初期のころは黒人音楽を巧みに取り入れて歌っているのがよくわかりました。
のちに英国から飛竜のごとく世界に躍進したビートルズに人気を奪われてしまいます。そのビートルズの絡みでいえば、1965年、全米ツアー中の彼らが尊敬すべきプレスリーに会いに行っているんです。当時としてはビッグニュース! そのとき、あろうことかベトナム戦争を肯定しているプレスリーをジョン・レノンが批判し、険悪な空気になったらしいです。そのやり取りが映画で触れられていなかったのは残念でした。
45年前、42歳で黄泉の国へ旅立ったプレスリー。どうして若死にしたのか。そこにパーカーが絡んでいたのか……。晩年は肥満に悩み、暗殺されることに怯え、正直、カッコよくなかった。でも、「ザ・キング・オブ・ロックンロール」として敬意を表する気持ちが映画に通底していました。
バズ・ラーマン監督がオーストラリア人ということもあり、全編、アメリカならぬ、オーストラリアで撮影されていたんですね。これにはびっくりポン! はて、『ボヘミアン・ラプソディ』の2匹目のドジョウを狙えるか!?
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie/
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved