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『エリザベス 女王陛下の微笑み』

 
       

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作品データ
原題 Elizabeth: A Portrait in Part(s) 
制作年・国 2021年 イギリス
上映時間 1時間30分
監督 ロジャー・ミッチェル(『ノッティングヒルの恋人』『ウィークエンドはパリで』『ゴヤの絵と優しい泥棒』)
出演 エリザベス女王、フィリップ王配、その他
公開日、上映劇場 2022年6月17日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ天美、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS 他全国ロードショー

 

~「我らが女王」エリザベス女王へのラブレター~

 

「女王ほど寛大な人はいない」、昨年亡くなったフィリップ王配の言葉である。13歳で王立海軍大学で凛々しい美少年に一目惚れして以来、フィリップひと筋に愛してきたエリザベス。25歳で戴冠してから70年にも及ぶ治世で絶対的支持を受けて来た。プライベートより公務を優先、本当の自分を見せず、君主制を守ってきた“愛されるべき女王、エリザベス2世”。そんな女王が如何に国民から慕われてきたか、今までのドキュメンタリーとはひと味違う、ポップな音楽にのせて国民目線で綴ったエリザベス女王の魅力のすべてがここにある。まさに、国民から捧げられたエリザベス女王へのラブレターのようだ。


ELIZABETH-500-4.jpg大盛況の内に終わった戴冠70周年祝賀行事《プラチナ・ジュビリー》を見ても、96歳の今でも威風堂々たる姿で国民の支持を一身に集めている。初日と最終日の最後にバッキンガム宮殿のバルコニーに女王が姿を現しただけで大歓声があがる。フィリップ王配に先立たれて以来体調不良が懸念され、そのお姿を拝見出来るだけでも尊い。特に近年、直系王族への継承をアピール、それを支える家族の重要性と、「国民と共にある」という根本理念を全面に打ち出している。いつまでも安定した国民の敬慕の対象となれるとは、日本人として羨ましいほど感動的だった。


ELIZABETH-500-2.jpgそんな誰もが知っている圧倒的存在のエリザベス女王を、「機知に富んだイタズラ心と、サプライズがあるものを作りたい」と手掛けたのが、『ノッティングヒルの恋人』や『ゴヤの絵と優しい泥棒』のロジャー・ミッチェル監督。残念ながら、本作を完成させた昨秋に65歳で急逝。監督が先の《プラチナ・ジュビリー》を見たら、きっと本作のテーマは間違ってなかった!と確信を持ったことだろう。70年間という存命の君主として世界最高齢で最長在位のエリザベス女王は、激動する世界の中で全く動じないひとつの定点であり続けた。それがどれほどの精神力を要したか――恐らく、本心を表に出さず忍耐の連続だったのではと想像する。フィリップ王配の「女王は寛大」という言葉は、幾多の試練にも動じず、国民にとっても常に安定した存在であり続けた証言のひとつなのかもしれない。。


ELIZABETH-500-5.jpg本作は今まであまり目にすることがなかった数々の珍しいシーンがてんこ盛りだ。中でも、女王と謁見前のマナー指導をするスタッフの様子や、来客前の準備に奔走する女王とスタッフの姿や、戴冠後半年をかけて廻った英国連邦諸国への外遊や、その他諸外国との友好親善のために訪れた多くの国々や人々との出会いの様子など、フィリップ殿下と共に歩んでこられたアーカイブ映像がテンポよく盛り込まれている。常に出会う人々のために「あなたを楽しませたい」という心から歓待する気持ちで臨んでいることがよ~く分かる。


ELIZABETH-500-1.jpgそもそも女王になるはずではなかった。1926年、エリザベスは当時国王だったジョージ5世の次男ヨーク公夫妻の長女として生まれる。ところが、1936年、祖父王の逝去で長男のエドワード王子が国王に即位したが、王妃に相応しくない女性(シンプソン夫人)問題で退位。当時ヨーロッパはナチス台頭で不安定な状況にあり、そんな時に国王の座を放棄するとは無責任な事なのだが…、急遽、父親のジョージ6世が即位することになったのである。その辺りは『英国王のスピーチ』(2010年)で有名。だが、第二次世界大戦の難局を乗り越えて間もない1952年に体の弱かった父王が急逝。25歳という若さでエリザベスは女王の座に就いたのである。「自分の運命を受け入れるしかない」という覚悟で、現在に至る…。


ELIZABETH-500-3.jpgそんなエリザベス女王を大きく変えた出来事がある。それは1997年に起きたダイアナ元妃の事故死である。長男チャールズ皇太子と離婚したとはいえ、二人の王子の母親であり国民の人気も未だに高かった。そんなダイアナ元妃の死亡後も弔意を表そうとしない王室に対し国民は不信感をつのらせていた。4日経ってようやく女王がスピーチを行ったのだ。国家元首としてではなく、ひとりの人間として、それまでにない女王の心の内を伝えたスピーチは、人々の心を落ち着かせたのである。その辺りは『クイーン』(2007年)でご存知だろうが…。


ELIZABETH-500-6.jpgその後も、長年女王を支えてきた母・王太后と妹・マーガレット王女が相次いで亡くなり、エジンバラ城の火災や次男エドワード王子のスキャンダルに孫のヘンリー王子夫婦の王室離脱と、96歳の今でも悩みの種は尽きない。妻であり母であり祖母であったエリザベス女王、ひとりの人間と君主としてのバランスを執ることの難しさを知ると共に、人々の理想や希望の対象であり続ける唯一無二の存在の女王に改めて感じ入る。《ロンドンオリンピック2014》では007ジェームズ・ボンドと、《プラチナ・ジュビリー》ではパディントンと共演を果たして世界中を驚かせたお茶目なエリザベス女王。本作の映像の中の若くて美しい女王の姿をいつまでも心に刻んでおきたいと、心からそう思った。

 

(河田 真喜子)

公式サイト:https://elizabethmovie70.com/#

配給:STAR CHANNEL MOVIES

©Elizabeth Productions Limited 2021

 
 
 
 
 

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